第45話

「………」



嫌われるようなことはしてない。


まず私が嫌うはずがない。彼のことを。


ただ。彼はやっぱり覚えていないんだ。


私にキスしたこと。カラオケのことを。



「一ノ瀬……?」


「田中くんこそなんで知らないフリしたの?」


「…ああ。知り合いって思われたくないのかなって」


「別にそんなこと……」


「なら良かった。ほら、一ノ瀬先輩、行くぞ」



私が立場上先輩なのに和解してから先陣切って歩く田中くん。


まあ同じ会社で働くのは悪くないかも?



トントン拍子に話が進み、無事に契約が取れた。



皆川さんに連絡するとそのまま直帰してもいいとのこと。



「皆川さんなんて?」


「うん。契約ご苦労さまだって。このまま直帰していいってさ。田中くんお疲れ様。じゃまた明日」

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