第88話

病室には夜にいた派手目な女性もいた。




「知り合いだったの?」と聞かれ「はい。」と答えた。




「凛と、どう言う関係なの?」裕二は女性に尋ねた。




「働いてる店が隣で顔見知り程度だよ。まぁ、一応知り合いだから残ってたけど家族が来たみたいだし帰るわ。」と言い病室から出ていった。






それから3時間ほどしてリンは目を覚ました。






「……ここ………」眩しそうに目を開けて、あたりを見ている。





「リン、久しぶりだな。」裕二が声をかけるとリンは裕二の方をボーッとした顔をしながら見た。










「…あなた………だれ?」





「リン?」俺の方を見ても、不思議そうな顔をしているだけだった。





ナースコールを押し、意識は戻ったが記憶がないことを伝えると担当の医者が来て検査をした。






「脳に異常は見つからなかったです。きっと、ストレスで記憶が消えたようですね。何かきっかけがあれば戻ることが多いですよ。」と言われた。




「……私のマフラーは?」彼女はそう呟いた。





「これか?」荷物と一緒に置いてあったマフラーを渡すとそれを抱きしめた。




「それ、誰から貰ったか覚えてないか?」そう聞いても首を横に振るだけだった。





彼女は何も覚えていなかった。






昔のことも、今のことも、自分のことでさえも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る