第13話
想像はしていたけどママは入学式に来なかった。
最近は前以上にイライラしていることが多い。
仕事も辞めてしまって、元々あまりなかった貯金を切り崩して、わたしのバイト代や心配したおばあちゃんがお金を置いていってくれてそのお金で暮らしている。
「リン、緊張してる?」洋に聞かれ、私はうなずいた。
学校にまともに通うのは小学校ぶりだ。洋とリカと裕二さんくらいしか交流がなかった私からしたら未知の世界だ。
周りは親も来ている。入学式だから当たり前か。もちろんうちの親が来るわけはない。
そう分かっていても周りと比べてしまって悲しかった。
「リン!遅くなってごめんね〜準備に時間かかっちゃった。」声のする方を見ると
「リカ?なんで?」夜職のリカはこの時間はいつも寝ている。
「娘みたいなもんでしょ。」そう言い笑うリカ。
入学式を終えて教室に向かう。教室へ入ると女子たちが私の周りに集まってきた。
「松下先輩とはどんな関係!?」皆が興味津々に聞いてくる。
どんな関係?雇い主の息子?
でも、そんな事言えないし…
「もしかして……彼女とか…?」1人がそう言うと、みんなが固まり私の方をじっと見た。
「違う。洋……松下先輩のお母さんによくお世話になっていて…それで。」
そう言うとみんなは安堵の顔を浮かべた。
「私、先輩に憧れてこの学校に来たんだ。」
みんなが席に座ると隣に座っていた女の子にコソッとそう言われた。
「私矢口香織。よろしくね。」矢口さんは色素の薄いセミロングの髪をふわふわとさせている。
「私は渡辺鈴です。」そう言うと矢口さんは不思議そうな顔をした。
「さっき、先輩にリンって呼ばれてなかった?」そんなことも聞いてたんだ…と思い、「愛称みたいなものだよ。」と答えた。
先生の話を聞き終え、荷物をまとめ帰ろうとすると矢口さんが
「私達今日から友達ね。だから……先輩と私、応援してね。じゃあ!バイバイ。」と、一方的に言い中学の時からの友達であろう子達と帰ってしまった。
「…?なんだったの……」
外には出るとリカが待っていた。
「今日は焼肉いくよ!洋も一緒に帰れるみたいだし。」
洋は少し離れたところからこっちを見ると手を振ってきた。
応援してって言われたことは何となく言わなかった。
好きってどう言うことかよく分からないけど
大切な人が取られてしまうような、そんな気がした。
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