第10話

家にいても辛いだけだった。





「何……文句があるなら言いなさいよ!」ママは手に持っていた酒瓶を投げた。





「なんでもないよ。文句なんて何もない。」私はそう弁解をしながら粉々になった瓶の掃除をした。





ママに受験について相談したかった。





高校受験をしたくても保護者にしてもらわなければ行けないこともあった。





でも、ママはそんなこと相談できる状況ではなかった。





「あんたがいなければ、ずっとあの人といれたのに。邪魔ばっかりしやがって。」





〝あの人〟というのは私の父親だ。





妊娠しているママを捨て、稼ぎのいい女のヒモとなったらしい。





捨てないで欲しいと泣き喚くママに





「子どもは金がかかるから要らない。それに、養育費も払えないし、中絶する金も払えないから。」




そう言って逃げたらしい。





お金がなかったママは中絶するのも出来なくて、いつの間にか私が生まれてしまったらしい。




金銭面でどうにもならなくなり、ママは実家を頼り、私はほとんどおばあちゃんに育てられた。





私の名前もおばあちゃんが付けたらしい。






「あんたがいなければ幸せだった。毎月旅行に行って美味しいご飯食べて、あの人と笑い合ってた。なのに…あんたが出来て全て壊れたよ。」





「ごめん……」私が謝るとママはそばに置いてあった本を投げつけた。






運悪く私の頭に当たり、その場で転んだ私は顔に粉々になった酒瓶が刺さって切れた。




「……いっ」痛む顔を触ると血がダラダラと溢れていた。






「何よ…汚いわね。どっか行ってよ。」





汚いものを見るかのようにママはそう言った。





私は顔をタオルで押さえると外に出た。





外には雪が降っていた。




破片が中に入ってしまったのか顔がとても痛い。





私はフラフラと歩き、気がついたらリカさんのマンションの前に来ていた。





「……」なんで来ちゃったんだろ。





薄着で外に出たせいか身体はガタガタ震えている。


   



あまりにも寒いからその場でしゃがみ込む。





このまま死んじゃうのかな?そう思った。





「…リン?何してんの」顔を上げると洋さんがいた。






「よ…う…さん?」小さく尋ねると彼は不思議そうな顔をしていた。





「顔どうした?」ただごとではないことに気がついた洋さんはしゃがんで私と目を合わせた。





「転んだ。」転んだのは嘘ではない。





「病院いこう。おいで。」洋さんは私を立たせようとしたけど私は拒否した。





病院なんて行ったら、ママとのことがばれてしまう。そう思った。




直接傷つけられたわけではないけど、ママが捕まってしまうかもしれない。




「行きたくない。」





「バカ。血が出てる。痛いだろ?処置してもらおう?」




洋さんはずるい。きっと分かってるんだ。私が逆らえないことを。




下を向くと優しく頭を撫でられた。





「いた…い。」ぽろぽろと涙を流すとハンカチで拭いてくれた。





「おいで。」勉強を教えてくれる時以外はあまり話をしない洋さんがすごく優しくて、少しだけ痛みが和らいだ気がした。

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