第21話



 私はあわてて、男の子の着物の袖をつかんだ。


 後でなんとはしたないことをしたんだと、恥ずかしくて死ぬほど悔やんだけど。



 でもこの時の私は、とにかく必死で。



 男の子が驚いたあと、顔をしかめたのも無視して。




「せめて お名前だけでもお聞かせください!何もわからず帰したのであっては、後ほどお礼にうかかがうこともできません!」




 懇願するけど、男の子は黙ったまま私の手から袖を抜いた。



 拒まれたようで、ズキンと胸が痛む。



 男の子は私に身体を向き直すと、まっすぐ見つめてくる。


 その瞳は力強くて、やっぱり睨まれてるように感じた。




 ………でもさっきより、全然怖くなくて………。




 今まできつく真一文字に結ばれてた口が、ゆっくりと開く。




「――――利勝だ」




 凛とした声が、静寂の中にはっきりと響いた。




「としかつさま……?あの、どちらの利勝さまでいらっしゃいますか?お住まいは……?」




 次の質問には答えず、少しだけ照れた表情を残して。


 利勝さまはまたくるりと私に背中を向けると、月明かりに照らされた白く光る道を、足早に帰ってしまわれました。




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