第20話



 男の子のおかげで、西の空の橙色が完全に山々に消え入る前に、私は何とか屋敷へ戻ることができた。


 門の前まで迷わず導いてくれたことに、正直 驚いたけど。




「あの……、うちをご存知だったのですか?」




 そう尋ねると、男の子は言葉を発することなくただ頷く。




(やっぱり、この人は)




「もしや、八十治兄さまのご友人の方でしたか?

 それでしたらどうぞ、お上がり下さいませ!ぜひお礼をしたいので……!」




 けれども男の子は、私が言い終わらぬうちに首を横に振ってしまう。




「では、提灯ちょうちんをお持ちいたしますから……」




 その言葉にも首を振る。




 何とか引き止めようとするけれど、男の子はいま来た道を戻ろうと歩き始めていた。




 行ってしまう。




 このままでは何の手がかりもなく、お礼もできないまま、


 終わってしまう。




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