第16話



「お前の住まいはどこだ!?」




 少し高めの、でもはっきりとよく通る声。




「………は?」




 こわごわ目を開けると、男の子は目の前で仁王立ちになって、早口でもう一度繰り返した。




「住まいはどこかと聞いておる!お前、迷子なんだろう!? 誰かとはぐれたのか!?」




 そう言って、さっと素早く辺りに目を配る。

 なぜかその顔は緊張した面持おももちで、しきりと周囲を気にしている。


 驚きのあまり 私が答えられずにいると、




「早く言えよ!送ってやるって言ってんだ!!」




 私の様子に苛立ちを覚えた男の子は、それを声に隠すことなく怒鳴った。


 不安と怖さと心細さで、私は涙声になりながら、




「住まいは……新町三番丁の、林忠蔵の屋敷でございます……」




 ようやく そう伝えた。




「新町三番丁の……林……?」




 男の子は驚いたように低くつぶやくと、少し考えて、




「わかった。俺が送ってやる。黙って後についてこい」




 言うが早いか、今来た道を足早に戻り始めた。




「えっ……、あの……?」


「新町はあっちだ」




 私があわてて腰を浮かすと、それだけ言って歩調も緩めずにさっさと行ってしまう。











 ※面持おももち……気持ちが表れている顔つき。



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