背中

第11話



 ――――そして 月日は流れ、



 兄さまは十の歳になると、藩校日新館はんこうにっしんかんへ入学することとなりました。




 早春の朔日ついたち


 入学の日は、降雪の切れ間のよく晴れた日のことでした。






「父上。お継母上。私もやっと今日から日新館へ通うことができます!

 父上に恥じないよう勉学に励み、立派な武士となるため精進いたします!

 それでは行って参ります!」




 朝食を終えたあと、麻裃あさかみしもの礼服に着替えた兄さまは、支度を終えるとおふたりの前に座り、深々と頭を下げて感謝の言葉をべたあと玄関へ向かわれました。




「兄さま……!」




 玄関から出て来た兄さまを見送るために、私は近道して庭から枝折しおを通って表に出る。


 兄さまはさわやかな笑顔を見せて、




「ゆき。行ってくる」




 足も止めずに歩いてゆく。




「いってらっしゃいませ!兄さま!」




 門の木戸をくぐり抜けると道を右に曲がり、兄さまのお姿はすぐ見えなくなりました。


 私も兄さまの後を追って 急いで門を出ると、迎えに参られた什長と共にお城へと続く道を歩く、ピンと背筋を伸ばした兄さまの後ろ姿を見つめました。



 日新館の生徒としての、堂々とした兄さまの誇らしい姿。



 そのお姿がまぶしくて、私は見えなくなるまで兄さまの後ろ姿を見つめ続けたのでした。











 ※枝折しお……折った木の枝や竹を束ねて作る、簡単な開き戸。



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