第3話

 



「兄さま!私に草笛を吹いてくださいな!」




 新緑の初夏。庭のサツキも満開の頃。



 庭で掃きそうじをしていた私は、兄さまを見つけて今日も元気にお願いする。



 早足で座敷を横ぎろうとしていた兄さまは、少し困ったお顔をなされた。




「ゆき、すまない。今は相手をしてられない。今日の『什』は、うちで集まるから」




 そう私に言い置いて、




「お継母上ははうえ。皆が来たら水をお願いします」




 台所の母さまには、そうお願いしている。




(……ああ。またですか)







じゅう』。



 会津で生まれた武士の子ならば、知らない者はいないでしょう。



『什』とは『十人の仲間』という意味。



 それは各地域ごとに編成されていて、武家の男子は六歳になると、その子供達の組織に属するよう決められておりました。



 八十治兄さまも、やはり六歳から九歳までの

『遊びの什』に属していて、毎日その集会に出かけてゆくのです。




 …………つまんない。





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