第58話

「んなの、簡単だろ?」と、至近距離で私を見つめてくる晃貴は、私の瞼にキスをする。



簡単だろ?

そんな事ない。

凄く考えたのに。

康二にも徹にも聞いて実践してみたけど、やっぱり、私がからかわれる立場になってしまう。




「真希が俺に嫌いって言えばいいだけ」



嫌い?



「大っ嫌いとか言われたら俺死にそう」


「そんなの、」


「別れたいとか? 死ねとか、消えてとか?」



別れたいとか⋯。

そ、ういうことば?

つまり、晃貴を傷つける言葉を言えばいいの?



瞼から、頬、軽く唇にもキスをしてきた晃貴は、「ほら、言えば?」と、愛おしそうに愛撫をしてくる。



晃貴の愛情のこもっているそれを受け入れながら、晃貴に「嫌い」って言えば、晃貴は⋯、晃貴は⋯⋯―――。




「ず、るいっ」



晃貴の腕の中で、顔を赤くしながら抵抗する。



「何が?」


「言えるわけないのにっ⋯」




分かってるくせに!


結局は、晃貴の方が1枚上手なんだもん!

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