第56話

ふと、さっき徹が言ってたことを思い出した私は、みんなの前じゃないけど、それをくちにする。



「晃貴、好き」って。


「知ってる」と言った晃貴に、また、似たようなことを言う。



「晃貴の声も好き」


「そう?」


「目も」


「目?」


「真っ黒な髪も好き⋯」


「なに、いきなりどーした?」



晃貴が、私の顔を覗き込んでくる。



「たまに優しい所も好き」


「俺ずっと真希には優しいだろ?」


「え、ウソだぁ」



晃貴はずっと、からかってくるし、意地悪だよ。



「酷いなあ、ゴリラって言うの、真希じゃなかったら今頃ボコボコにしてんのに」




クスクスと、おかしそうに笑う晃貴。



「そんなに私が好き?」


「だから言ってるだろ愛してるって」


「じゃあ、みんなの前でキスして?」



私の言葉に、ぴたりと動きをとめた晃貴。そんな晃貴の顔を見れば、少し、口角をあげた彼がそこにいて。



「じゃあ、舌も入れていい?」



意地悪な笑みをしながら、言ってくるから。


まさか、そう来るとは思わなくて。


驚く顔が、見たかっただけなのに。

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