第55話

ほとんど見ず知らずの人とコンビニへ行くなんて初めての事だった。

松葉杖を上手に使い、道を歩く男。

男の人だから、こうやって松葉杖を使う筋力もあるのかなって歩きながら思った。



冷たい爽健美茶を買ってもらい、私はそれを両手で受け取った。実は病院に走ってきて、病院を出るまで水一滴も飲んでなかったから本当に喉が乾いていて。




「ありがとうございます」


「いや·····」



傘の中に入れたお礼のお茶。


お礼を受け取った事は、これで最後。




「あの·····、帰りますね。足、お大事にしてください」


私は軽めに頭を下げた。




「あのさ」


近くから聞こえる男の声。


ゆっくり首を傾けながら、男の顔を見た。綺麗な髪。綺麗な漆黒の瞳。綺麗な鼻筋·····。


頭の良さそうな顔立ちをしているのに、耳には銀色の輪っかのピアス。




「また会いたい」


「え?」


「また会ってくんねぇかな」



お礼が終わったのに?

どうして?

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