第16話

コウセイのベットは爽やかな匂いと、煙草の匂いが混じっていた。不思議とイヤな気分にはならなかった。全く甘い匂いがしない…。



どちらかと言うと、ユタカと真逆だった。ユタカはいつも甘い女性のような香りがする。それは会う度に違う…。他の〝お姫様〟の移り香…。



ウトウトとしながら、煙草を吸っているコウセイの横顔を見ていた。その顔はやっぱり2個上には見えない。


私を抱かず、さっきまでキスをしてきた男。



「…見えないね」


「なにが」



横顔が、少し正面になる。



「ほんとに21歳?」


「誕生日まだだから、20歳」


「え、うっそ、1歳差?」


「お前19?」


「うん、ついこないだ…」


「ふうん…」


「ってか20歳なのに…結構私をガキ扱いしてたよね…」



ベットで寝転んでいる私から顔を逸らしたコウセイは、煙草の火を消した。そしてそのままどこかへ行こうとするのか、ジャケットを着た。もう夜中の12時を過ぎている。



「どこかいくの?」


「コンビニ、煙草切れたから」


「ヘビースモーカーだね、肺が真っ黒になっても知らない」


「もう遅いわ真っ黒」




玄関に向かうコウセイを見送った。

コウセイが戻ってきのは、それから多分、10分も経ってない。

「悪いな」と袋に入った私にそれを差し出してきた。「ケーキ、無かったわ」と。



袋の中を見て、私は泣いた。


そこにはプリンなどスイーツ系のおやつや、チョコレート系のお菓子が、袋から溢れそうなほど入っていた。



誕生日プレゼントとか、ましてや誰かに何かを贈られることなんて今まで無かった…。ベットの上に座り、ポロポロと涙を流せば、隣に腰かけてきたコウセイが怪我をしてない側の頭を撫でる。



「…ケーキは来年な」


「ん…」


「なあ」


「…っ、…」


「やっぱり、結構優しい方だと思うんだけど」


「……、」


「…俺じゃダメなのかよ…」


「…っ…」


「もっと優しくするから」



声が出なかった…。泣きながらコウセイを見つめた。──…私はただ、居場所が欲しいだけ…。




できない…。

私の事を好きだと言ってくれる男…。

私はまだ、コウセイの事を好きじゃない…。

心の中にユタカがいる…。


コウセイはこんなにも優しい男なのに、軽い気持ちでそばにいることなんてできない…。


ましてや利用するなんて…。



────…お金を払ってるからこそ、私はユタカに居場所に求められるというのに…。私のワガママで…コウセイを縛るなんてできない。



「ごめんなさい……」と、謝る私は、「出ていくね、手当てしてくれてありがとう…」と、コウセイを見つめた。



コウセイが私を抱きしめる…。

コウセイからは、煙草の香りがした。



その香りに包まれながら、確かにこの時、私はユタカとの関係を終わりたいと思った…。


それでもユタカに依存している私はやめる事が出来なかった……。

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