第15話

コウセイに連れられて、私は繁華街から少し離れたマンションに来た。古くもなく新しくもない。きっとここは、コウセイの家。一人暮らしなのか、見た感じそんな気がした。



その部屋の浴室に私を入れようとするコウセイに「…仕事は、」と聞く。コウセイは「休み」と呟いた。スーツじゃない理由が分かった。



「とりあえず血流して来い」と、扉を閉めた。もう傷口は塞がっていたようで、お湯にふれると痛かったけどあまり血は出ず。

ぼんやりと目が腫れたまま、体にタオルを巻きリビングの方に行けば、コウセイに服を渡された。



私は正直、男性と2人きりで部屋の中に入れば、抱かれてしまうと思っていた。けれどもコウセイは頭の傷口を見て、「傷口は小さいな…」と呟きながらガーゼを貼っていた。



「…お前さ、家帰ってねぇの?」


「…うん」


「どこ泊まってんの」


「分かんない…色んなところ…、」



24時間営業のファミレス。

ネカフェ。

ホテル…。



「1番好きなのは、ホテル…、抱かれたあとでも……布団で寝れるから…」


「じゃあ、ここに住む?」



そう言ってくるコウセイに、ゆっくりと顔を上げる。



「…お前ならいいよ」



お前なら……。

何言ってるの…。

付き合ってもない。



「……抱くの?」


「いや」


「抱かないのに、住むって…」


「マユ」


「私の価値は、それぐらいしかないのに…」


「バカ言うな」


「汚いから?抱きたくない?」


「…お前、」


「病気持ってても、一緒に住んでもいいの?うつるかもよ?」



きっと、私の目には生気は無かったような気がする。ちっとも笑ってない。無表情…。


そんな私の元に近づいてくるコウセイは、身をかがめ、口を近づけてきた。




「…うつっていい」




1回、1万円って言ったのに。



私の唇を塞ぐコウセイは、まるで割れ物みたいに大事に扱う。



角度を変え、何度も繰り返しキスをしてくるコウセイは、この時を待っていたかのように離れてはくれない…。



「…口開けろよ」



薄目で、少し枯れた声で、私に命令をする…。言われた通りにそのまま開ければ、また唇が重なった。


離れたのはいつか。


結構、時間が経っていたような気がする。2人の吐息が重なり合い、見つめあった。



「…俺、お前の事知ってたよ、店に来る前から」


「…え?」


「同じ中学だったしな」



同じ中学?

誰が?

私と、コウセイが?



「1回だけ喋ったこともあるんだぞ?」



喋ったことがある…?

怪我のしてない方の頭を撫でるコウセイは、懐かしむように柔らかく笑っていた。



「……いつ?」


「俺が3年で、お前が1年とき」


「……え?」


「俺な、身内が組関係っていうか。みんな怖がって周りに全く人が寄り付かなかったんだよ」



組?



「だからお前のことはよく覚えてる…」



よく覚えてる?

初めて、会話をした時のことを?

私とコウセイは、知り合いだったの……?



「私の名前、知ってたのも、?」


「いや、それは店に来てから初めて知った」


「コウセイさん、…2個上なの?たったの?」


「そこ?」


「だってもっと年上かと…」


「悪かったな、老け顔で」


「そうじゃなくて、大人っぽいって意味…」


「そうか」


「…どうして言わなかったの?初めて会ったみたいな対応して…」


「それはお前が、」



私が?



「ずっと俺に、地元がキライ…みたいな相談してきてただろ?」


「……」


「言ったら、会えなくなると思った」


「……いつから?」


「なにが」


「いつから私の事を?」


「…初めて会った時、いいなって思った。けど好きだなって思ったのはこうして喋るようになってから」


「…風俗も紹介したのに?」


「外でウロウロされるより、安全なところで働いて欲しいだろ」


「好きなの?」


「なにが」


「私の事…」


「そうだな…、ずっとキスしたいぐらい」




ずっとキスしたいぐらい…。


唯一、私の綺麗な場所。

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