第14話
──────頭に衝撃が走った。それは久しぶりに家に帰った時、運悪く父親と遭遇してしまったから。アルコール依存性で、昔から娘に暴力を振るう父親と。
壁に当たった打ちどころが悪かったらしい。頭から血が流れるのが分かった。
凄く痛い…。
ジワジワと、髪が赤で濡れていく…。
殺される…。今まで何度そう思ったか分からない。
必死に家から逃げた。
逃げて、逃げて。
無意識に足を進んでしまう場所は、ぬくもりをくれるユタカのところ。
店の近くまで来たところで、私はすれ違う人達にジロジロ見られているのに気づき。さっきから痛む頭皮に手を当てた。
少し乾いているものの、指先には血がついていた。どうやらまだ、流れ続けているようで。
こんな状態でユタカの元へ行けるはずもなく。私はコンビニの前の、端の方にいた。
そのまま蹲っていると、「なにしてんのぉ」と若い男の人が話しかけてきたりするけど、私の頭から流れている血を見て「やべぇクスリでもやってんじゃね」と、気味悪そうに傍から離れていく。
それでも、「知ってるか?」と、膝をおり、血を見ても逃げ出さず私に話しかけてくる男がいて。
「好きな奴なら、無意識に探して見つけることが出来るらしい」と。
人混みの中から、私を見つけたコウセイは、「どうした、誰かにやられたのか」と、少し怖い顔をしながら私を見つめていた。
暗い夜でも、コンビニから出るあかりのおかげで、コウセイの顔が良く見えた。今日のコウセイは、真っ黒のスーツじゃなかった。
「父親…」
私の言葉に、もっと顔を顰める。
「いつもの事だから…」
「…頭か?病院は?」
「行かないよ、保険証?っていうの持ってないもん…作ったことない…」
「入ってなくても診てくれる」
「勿体ないし、お金…」
ほんと、ユタカに10万を軽々使う私が、何言ってるのか。
「なんで自分を大事にしない…?」
そう言ったコウセイは、手のひらで私の頬を包んだ。血がつくのに。
「もっと酷い時あったもん…」
「マユ」
「触んない方がいいよ、私、結構汚いし…」
「……」
「コウセイさんが今さわってるそこも、昨日たくさんおじさんに舐められたよ?おかげでお金くれたけど…」
「…お前、また体売ってんのか」
「うん、だから触んない方がいい、結構何人か相手したし、病気持ってるかも……わたし、」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……苦しいよ……、コウセイさん……」
「……」
「…苦しい……」
コウセイの腕が、泣いてる私を包み込む。
コウセイに抱きしめられてる。
「……たすけて……」
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