第5話

驚いた顔をするユタカ。

それもそうかもしれない。

私は延長をした事がないから…。

今日の財布の中は2万5000円。



「…全部で2万ちょい、かな。…マコ、延長するの?」


「うん、だめかな」


「…ううん、そんな事ない嬉しいよ。でも無理しなくていいよ。そう思ったの、俺があんまりいれなかったからだよね?本当にごめんね」


「…」


「もし良かったら、明日来て? 明日は雨っぽいからお客さんも少ないだろうし…。延長しても呼ばれたら抜けないとダメだから。明日ならずっと一緒にいれそうだし…。ね?」


「…ユタカ…」


「ありがとう、マコの気持ちすごく嬉しかったよ」




そう言ってくれるユタカに、私はやっぱり惹かれてしまう。優しいユタカ…。

明日はずっと一緒に…。



「分かった…、じゃあ今日はこのまま帰るね。明日…、バイト終わってからだから、少し遅くてもいいかな?」


「うん、もちろん。待ってるね」



ユタカは微笑むと、私の頭を撫でる…。

ユタカが本物の恋人だったらいいのに…。





店を出たあと、コンビニに立ち寄った。

そのコンビニの前にまた煙草を吸っている彼がいて。その人も私に気づいたらしい。

静かに目があった。


「…また休憩?」と聞けば、「買い出し」

と、何かが入った袋をヒラヒラとさせた。買い出しに来ているのに、コンビニの前で煙草を吸っているのはどうかと思うけど。



「私はお腹すいたから、おにぎり買いに来た」


笑ってそう言えば、「聞いてねぇよ」と鼻で笑われる。



食べ物といえば、と。

あることを思い出した私は、「あのね、聞きたいことがあるんだけど…」と、その細長い煙草を見ながら、口にした。



「ぽっきーってどういう意味?」



トイレで言われた、その言葉を。



「ぽっきー?」



眉を寄せるコウセイ…。



「うん、言われたの…。女の人に…」


「店で?」


「…うん」


「店のどこ?」


「…トイレ…」



コウセイはその言葉の意味が分かったのか、眉を寄せるのをやめ。



「悪いな、極力気をつけてるけど…」と、質問の返事とは違うことを言ってきた。



「え?」


「指名、かぶり客とは会わせないようにはしてんだけど…。悪いな」



指名…。

かぶり…。

客。

そう言われて分かったのが、さっきトイレであったのはユタカを指名している〝お姫様〟だってことで。


………だとしたら、きっと〝ぽっきー〟とは、私の悪口………。



「お前、あんまここ知らねぇし、調べたら分かるから言うけど、金使う客のこと太客っていうのな?エースとか」



太客…



「逆に使わないのが、細客。だからその女は金使ってない意味でぽっきーって言ったんじゃねぇの、あれ細いし」


「そういう用語があるの?」


「いや?初めて聞いたな」



ふう、と紫煙をはくコウセイを見つめ。

ゆっくり下を向く。


そうか。

私なユタカの他の〝お姫様〟に、そう思われているんだ。お金を使わない〝お姫様〟。




「もっと使った方がいい…?」



静かに呟けば、「使ったらユタカは喜ぶだろうけどな」と、もう一度煙草をくわえる。


ユタカが喜ぶ。



「でも、やめとけ。金を貯めるってのはそう簡単なものじゃない」


「……」


「このままいけば、体を売ることになる。そうはなりたくないだろ」




コウセイの言葉に否定できなかったのは、私も考えていたからだ。

夜のお店で働けば給料が増える。

沢山会いに行ける。

それでも私は体を売るということに抵抗があり、深く考えないようにしていた。



「うん、初めては好きな人としたいし…」



ぽろ、と言えば、「なに、お前やった事ねぇの」と、今日は珍しく煙草を地面に落とすのではなく、コンビニの前にある灰皿へと捨てた。



「…ないよ」


「ふうん、もったいな。いいから体してんのにな」


「何言ってるの…見たことないくせに…」


「ンならホテル行く?久しぶりに処女抱きたいし」


「は、」


「好きなやつって、ユタカとやるには1000万は貢がねぇとな。俺ならタダだし」


「…」


「ま、冗談」



意地悪く笑ったコウセイは、「だる…」と首を鳴らしながらお店の方へと向かっていった。

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