純愛

第32話

久しぶりに繋いだ乙和くんの手は、昔と変わらず私よりも大きくて、しっかりとしていて、温かかった。


私が乙和くんから離れないように強く手を握る。そんな乙和も強く離れないように握っていた。


だから2人の手が、離れることはなく。




「邪魔しちゃダメだから帰るよ、2人ともまた明日!」と狭川くんは帰っていき、2人きりになった私たち。

私を家まで送ってくれるらしい乙和くん…。

1歩1歩進むたびに、泣きそうになった。

もう、こういう関係になるとは思わなかったから。



「乙和くん、ごめんなさい…盗み聞きして……」



静かな夜道では、やけに私の声が響いた。すごく小さな声だったのに、静かな夜道のおかげで乙和くんの耳に届いたらしい。


乙和くんは優しく笑った。



「謝らなくていい、──…はるに言うって決めたのは、俺だから。っていうか、謝るなら俺の方なんだよ」


「え?」


「病気のこと、はるに言おうと思った。だけどはるは優しいから俺のそばにいてくれると思った…、はるが好きだから、言えなかった」


「…うん」


「あと、もしはるが俺を拒絶して、はるから別れたいって言われるのも怖かった…」


「言うわけない……」


「うん、だから、俺が悪い。俺が弱かっただけ」


「そんな事ない、乙和くんは強いよ。だって私に教えてくれたもん。向き合おうって思ってくれた。すごく嬉しかった…」


「はる…」


「信用してくれて嬉しかった…」


「うん……」



小さく微笑んでくれた乙和くんは、「俺ね?」

と、私の手を引きながらゆっくり足を進ませる。



「はるの優しいところ、好きになったの」


「…優しいところ?」


「嫌な顔しなくてノート貸してくれて。ああ、いい子だなって思ったらいつの間にか好きになってた」



私の頬が赤くなるのが分かった。

さっきまで泣いて、腫れぼったい瞼も、赤がうつりそうだった。



「わ、たしも、…」


「え?」


「私も、乙和くんの優しいところがすき、」



恥ずかしくて、乙和くんの顔が見えなくて。




「人の悪口をいわないところとか…」


「…」


「いっぱいある…」


「…」


「っていうかね? 好きだからこそ、全部を好きって思うの…」


「…」


「乙和くんに嫌なところなんて、ないよ」

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