第33話

歩いていた乙和くんの足がぴたりと止まった。

自動的に、私の足も止まる。


乙和くんの指先が、私の頬に触れた。

その指先に力を入れ、ゆっくりと私顔は上へと向けさせられる。

優しい大好きな乙和くんと目が合う。



今の乙和くんの目に、私はどう写っているんだろうか?乙和くんの視野に、私の全ては写っているんだろうか?



「約束してほしい」



約束…

それはとても、真剣な声だった。



「嫌って思ったら、すぐに教えて。1人で抱え込まないで欲しい」


「…乙和くん」


「好きでも、嫌だったら言って」


「…」


「耐えられないって思ったらすぐに言って…」



耐えられない…。


乙和くんが失明し、私が耐えられなくなったら。もう乙和くんの傍にいたいと思わなくなったら。


そんなの、絶対ないのに…。

どこまでも私のことを思ってくれる優しい恋人。



「…うん、わかった…」



私の言葉にほっとした顔をした乙和くんは、そのまま頭を撫でてきたから。愛おしくなり、乙和くんの胸元に顔を埋める。



「そのかわり、私とも約束して……」



繋がれている手を、強く握った。



「私を思って、別れた方がいいって、言わないで…」


「…」


「思っても、言わないでね…」


「はる……」


「私が耐えられないって思ったら、約束通り、乙和くんに伝えるから…」




乙和くんは「わかった、約束する」と、そのままゆっくりと私を抱きしめた。




目が見なくなっても、私は乙和くんが大好きだよ。


きっと私は、乙和くんだから。


乙和くんだからこそ、目が見えなくなっていく乙和くんも好きになる…。




目が見えなくなっても、乙和くんは、私の大好きな乙和くんなのだから。

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