第31話

泣かせないと、言ったのに。

私の言葉に、じわじわと涙を浮かべる乙和くんは、私の顔を見続ける。



「大好きだよ…」



愛の言葉を呟けば、今度は強く、乙和くんが〝離さない〟とでもいうように、骨がなりそうな程抱きしめてきた。

それでも痛いとは思わなかった。

乙和くんの心の中はもっともっと…痛い…。



「ばか…」



私に悪口を言う彼だけど、そのトーンは優しかった。昔の乙和くんだった。



「乙和くんも、私を泣かせないで…」


「ばかだよ…」


「つぎに、別れたいって言ったら、ずっとずっと泣くからね」


「俺のとこに帰ってきても、泣く羽目になるよ」


「ならないよ…」


「なる…」


「だって乙和くんが大好きだから…」


「…っ、」


「大好きだよ……」


「…はる、」


「──…教えてくれてありがとう…」

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