第30話

回復することは無い…。


1度、無くなった視野は…。


視野が狭くなっていく病気……。


失明してしまう病気…。



乙和くんは、落ち着いた声でつげる。



その病名を。



〝網膜色素変性症〟



1回だけでは、覚えられないほど難しい呼び名。



「指定難病なんだってさ」



指定難病……。

乙和くんは、笑っていた。



「さっきもいったけど、50パー遺伝の病気。けど身内に同じ病気のやつはいないから…。俺の場合は遺伝じゃないみたいだけど…よく分かんね……」




子供が好きな乙和くん。

自分の子供と、キャッチボールをしたいと、言っていた…。



「目がもし、ずっと見えていても、はるを傷つけるのは分からない……。俺ははるに、家族を作ってあげられない…」



家族を作れない…。



「……はる?」



優しく頭を撫で続ける、大好きな人…。



「はるは俺といると、ずっと泣く羽目になるよ?」



泣く羽目に…。



「それでもはるはいいの?」



それでも、私は……



顔をゆっくりとあげ、乙和くんを見つめた。別れる時、ずっと私の顔を、焼き付け、忘れないように見ていた男……。



いいって言ったら、乙和くんは迷惑をかけると言って、否定するんだろうな…。



「…とわくんは、」


「うん」


「とわくん、」


「うん」


「いま、話してくれたから…」


「…うん」


「わたし、とわくんと、向き合っていいの?」


「はる…」


「ずっとそばにいてもいいの……?」


「……」


「もう、壁はなくなったって、思っていいの…?」




なくなったのなら…。


乙和くんが、私を受け入れてくれたのなら。



「…ずっと一緒にいるよ、当たり前だよ…」



だから。



「私がもう、乙和くんを泣かせない…」

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