第25話

──…私は弱い人間だった。

乙和くんの持つ病気を受け入れる受け入れないのではなく、乙和くんが死んでしまうかもしれないということが怖かった。



ベンチには、狭川くんだけが座っていた。ベンチから死角になるよう、草むらの中に座って隠れている私は本当に弱い人間…。



こそこそ隠れるなんて、してはいけない。

本当ならまっすぐ乙和くんの顔を見て聞かなきゃいけないのに。


私はぎゅっと自身の鞄を抱きしめた。




乙和くんが来たのは、連絡を入れて1時間ほどした頃だった。草の隙間から見える乙和くんは制服のまま。

歩いてきたらしい乙和くんは、「なに、呼び出して」と、ゆっくり歩いてくる。


2メートルほどの距離をあけ、立ち止まった乙和くん。私は乙和くんの背中しか見えなかった。

だから乙和くんがどんな顔をしているのか分からなくて。



「…乙和に報告があって」


「うん」


「俺、はるちゃんと付き合うことになったから」



笑っていなく、真剣な表情で嘘をついた狭川くん。嘘をつくとは言っていた。だけどどうしてそんな嘘を…。



「…それは同意の元?」



乙和くんの声はやけに静かだった。



「同意だよ。…はるちゃんまだ乙和のこと好きみたいで。けど慰めたら、心開いてくれて。さっき付き合った」


「晃…、晃は俺の事ではるに近づいたのは分かってる。前に言ったけど、中途半端な気持ちではるには関わらないでほしい」


「確かに中途半端だった、けど、はるちゃんっていい子じゃん。さすが乙和と付き合ってたっていうか…、普通に好きになった…。俺が守りたいって思った」


「……」


「いいよな?乙和。俺が本気なら付き合っても」


「…晃…」


「もうお前、はるちゃんと関係ねぇんだから」



乙和くんは、静かだった。



「……晃が本気なら、俺は何も言わない」



乙和くんの、顔が見えない。



「乙和」


「…大事にして欲しい、はるは本当にいい子だから」


「…いい子なのに、なんで手放したんだよ」


「…」


「マジで俺が貰っていいのかよ?返さねぇぞ」



ベンチから立ち上がった狭川くんは、立ったまま動かない乙和くんの方に向かう。


そのまま「乙和」と低い声を出した狭川くんは、乙和くんの胸ぐらを掴んだ。



「お前、好きな女をとられてまで、言いたくねぇの?」



顔を近づかせた彼は、どこからどう見ても怒っていて。



「惚れた女を、幸せにしたくねぇのかよ…」



ゆっくりと胸ぐらを話した狭川くんは、「…はるちゃん泣いてたぞ」と、呟く。

それに反応した乙和くんが、軽く、顔をあげた。



「これからも泣かせるのはお前で、笑わせるのが俺の役目でいいの?」


「…」


「なあ、」


「…」


「乙和」


「…」


「…」


「…」


「…」


「…」


「…──そんな顔するなら、別れなかったら良かったのに……」



私からは、乙和くんの表情は、まったく見えなくて。

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