第26話
狭川くんの言ってる〝そんな顔〟が見えないけど。
乙和くんが「無理なんだよ…」と、呟いたその声に、私は咄嗟に口元を抑えた。
今にも泣きそうで苦しそうな声は、別れたあの日と同じようなトーンだったから。
「…なにが無理?」
聞き出そうとする彼…。
「俺ははるを幸せにできない…」
「なんで」
「晃も分かってるだろ…」
「…体、悪いこと?…分かってるよ、それでも生きてるだろ」
「…」
「乙和」
「…」
視線を下げ、目元に手を置いた乙和くんに、「 頭か…?」と、不安げに呟いた。
「腫瘍とか、あるのか?腫瘍なら取れるだろ?」
「…」
「乙和…」
沈黙が流れた。
雰囲気が、暗く。
私が1呼吸でもすれば、私がいる事がバレそうなほど…深い沈黙だった。
「頭じゃない…死ぬ病気とか、そんなんじゃない」
「…だったら、なんで言えない…?死ぬ病気じゃないなら…」
耳を塞ぎたい。
塞いでしまいたい。
「……いずれ失明するんだってさ、この目」
乙和くんが、私と別れた理由…。
「5割ぐらいの遺伝で…、子供にうつるらしい」
子供が沢山欲しいと言っていた乙和…。
別れた日、あんなにも泣きながら、私の顔を目に焼き付けた理由は……。
〝もっと見せて〟
見えなくなってしまうから。
「……──ッ、…はるに言えるわけないだろ!!」
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