第20話

断ろうと思った。

別れたけど、私はずっと乙和くんが好きだから。

けれども彼は来るようになった。

ずっと来る。

休み時間になると私に会いに来るようになった。


移動教室の合間でくる。

例え向こうが体育でも、「小町さん」と会いに来る。「よぉ、乙和」と、たまに狭川くんは乙和くんにも話しかけていた。



見る限り、狭川くんは乙和くんの友達らしく。



結局、初めて会話をしてから数日後、お昼休みに捕まってしまった私は、狭川くんとお昼を共にする事になり。

「小町さんって長いから、はるって呼んでもいい?」って聞かれた時には、もう心の中が嫌で仕方なく。



「あの、」


「ん?」



乙和くんと別れてからあまり食欲がない私は、おにぎり一つだけだった。



「どうして最近、関わってくるの…?」



私の質問に、目を大きくさせ驚いた顔をする狭川くんは「え?!」と、大きな声を出す。



なんで驚いているか分からない…。



「俺、結構はるちゃんにアタックしたつもりなんだけど。もしかして気づかれてなかった?」



アタックしたつもり?

それは…



「普通に好きだから、付き合いたいと思って」



付き合いたい?

私と?

乙和くんのブランド…


私が黙っていると、狭川くんは「だって、乙和と付き合ってたし、すげぇいい子なんだろうなって」と、大好きな人の名前を出してきた。



「…私が乙和くんと付き合ってたから?」


「あー、そういうのじゃない。なんつーか、お墨付きって言い方が合ってんのかな」



お墨付き?



「はるちゃんはまだ乙和のこと好き?」



その質問にも、黙り込む。



「だったら、俺が忘れさせてあげる」



やめて…。



「聞いた話、乙和のやつ、無理矢理はるちゃんと別れたんでしょ?女の子を傷つけるのはなぁ…」



やめて。


こんな人が、乙和くんの友達だなんて…。


関わりたくもない。



「狭川くん、乙和くんの友達…?」


「え?ああ、うん、同じ中学だし」


「友達なら乙和くんの言うこと、悪く言わないで」




私がゆっくり下から狭川くんを睨みつけると、狭川くんは目を瞬きさせた。


「…ごめん」と、謝ってきたけど、ここにいるのがイヤでイヤで。立ち上がりこの場を去ろうとした私を「まって」と引き止める。



「はるちゃんが乙和のこと、まだ好きなのは分かった…。けど俺も好きだから」


「まだじゃない…、ずっと私は乙和くんの事が好き…」


「…」


「…ごめんなさい…、」


「そんなに、乙和のこと好き?じゃあなんで別れたの?」



なんでって…。



「乙和、俺がはるちゃんに会いに来るたびに見てくるから」



聞きたくない…。



「乙和、言ってきたよ。俺に。半端な気持ちではるちゃんに近寄らないで欲しいって。ほら、俺ちょっと遊んでた時あったから」



やめて。



「明日も、誘いに行く」


「来ないで…」


「乙和からちゃんと許可貰う。ってか、元彼に許可っている?」


「やめて…」


「やめないよ。俺はるちゃんが欲しいもん」



私は今度こそ、彼から離れた。



「大好きだよ〜」



校舎内に響き渡るように大きな声を出した男。




その現場を乙和くんに見られていることに知るよしもなく。



この時、狭川くんが何を考えていたのか、今の私には分からなかった。

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