苦恋

第19話

乙和くんと別れてから数ヶ月が過ぎた。

もう夏も終わり、秋も終盤。

別れた次の日から、私は乙和くんにノートを貸さなくなった。

いつも乙和くんは、小山くんにノートを借りてるらしい。

この前、クラスと女の子が乙和くんに「私のノート貸そうか?」と言っているのを聞いた。

けれども乙和くんはそれを断っていた。


たくさんの人からモテる乙和くんが、彼女を作ったという噂も流れることはなく。

それは何故なのか。

まだ私を想ってくれているからなのか、分からない…。


だけどあの日以来、乙和くんとは目が合わなくなっていた。




乙和くんと別れてから、周辺に変化があったのは、すぐだった。女の子からは「どうして別れたの?」って聞かれた。


違うクラスの男の子から「ばいばい」など、「連絡先おしえて」と話しかけられるようになった。




数ヶ月たった今はもう少ないけど、今日は久しぶりに「あ、今帰りなの? 校門まで一緒に行かない?」と、まったく関わりのない男の子から話しかけられ、1人で帰るのがほとんどなのに「友達と帰るので…」と嘘をついた。

「そっか残念、また今度誘うね」と、離れていく彼にため息をつく。




そんな光景を見て、「モテるな〜小町さん」と私に話しかけてきたのは、小山くんだった。



モテる、私が?

そんなわけない…。



「さっきのこうだろ?」



こう?



「結構モテるよ?あいつも」


「…あんまりよく知らないから…」


「……最近、よく小町さんの名前聞くわ。可愛いって。なんか垢抜けたって感じ、なんつーの清楚系?」


「そんな事ないから…」


「そんなことあると思うけど」


「…小山くん」


「乙和と別れてから、雰囲気変わったから」



変わった?



「普通に可愛いし」



へらりと笑う小山くんは、いつもと変わらなかった。



「たぶん、乙和と付き合ってたから余計に絡んでくるんだと思う」



乙和くんと付き合ってたから?

それを聞いて、なるほどと思った。

ようするにブランド…。



「そっか、」と静かに笑うと、「じゃあ、また明日。ばいばい」と小山くんは帰って行った。





乙和くんとは同じクラスだから会うけれど、お互いが喋りかけることは無くなかった。

まるで、乙和くんと出会う前に戻ったみたいだった。




晃という生徒から話しかけられたのは、翌日のこと。違うクラスなのにわざわざ私のクラスまで来た彼は、「おはよう小町さん」と、手を振ってくる。



…なに?



座っている私のところに来た彼は、「今日こそ一緒に帰れる?」と尋ねてくる。


昨日、断ったはずの彼。


教室の中には乙和くんと小山くんもいて。

別れた乙和くんに見られたくなくて、視線を下げた。



「ごめんなさい…今日も、」


「じゃあ明日は?つか、お昼は?弁当一緒に食わね?」



にっこりと笑う、黒髪のその人。

目の下にホクロがあるのが印象的だった。

小山くんの言う通り、モテる容姿をしていて。



「友達と食べるので…」


「じゃあ土日」


「あの…」


「つか、いつ暇?バイトとかしてる?」


「…」


「明日の放課後、一緒に帰れるってことでいい?」



晃という男の子は、戸惑う私に「じゃあ明日迎えに来るね」と、その場を離れようとするから呆然としてしまう。


勝手に決まってしまった約束…。



「ちょっと、さっきのひと、狭川さがわくんだよ!はる、知り合いだったの?」



と、友達に話しかけられも。

私は乙和くんのことで頭がいっぱいだった。


私の方を見ていない乙和くんに、さっきの声は届いていたのだろうか。

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