第18話

私が〝乙和くんは何かの病気かもしれない〟と思ってることに、乙和くんは気づいてる。



乙和くんの瞳は、よく分からなかった。

色つきの眼鏡で、隠れてしまっているから。


それでも乙和くんの心が泣いているような気がしたから。


乙和くんを笑わせるためには、どうすればいいんだろう?



別れたくない。

どうして私に言えないの?

教えて。

私がそばにいるから。

もっと頼って。

支えるから…。



そんなことを言えばいいんだろうか。


きっと、最後。

これが最後。


優しい乙和くんは、悪者になる…。



最後に私は、何をすればいいんだろうか。



乙和くんを安心させればいい?

もっと頼りにしていいんだよって、乙和くんに思わせればいいの?



分からないよ。



でも、私を想って、乙和くんが悪者になる必要なんてない。

乙和くんはずっとずっと私の好きな人なんだから。




ずっと黙り込んでいた私は、手の甲で涙をふいた。



「…とわくん、」



そして、乙和くんを見つめる。


私の気持ちはただ一つ。


この気持ちだけを伝えたい。


どうして私に言ってくれないの?という、そんな言葉よりも。



頑張って口角をあげて、目の奥が熱くなるのをこらえて、笑った。



「──……大好きだよ」




乙和くんの顔が、すごく歪んだのが分かり。

私はさっきまで乙和くんの顔を見つめていたのに、なぜか柔らかい場所で顔を埋めていた。



私に「別れてほしい」と言ったはずの乙和くんが、私を抱きしめる…。




「ごめん、」



乙和くんの声は泣いている。



「……やっぱり……気づいてる?…」



気づいてる…。

気づいてるよ?

だって優しい乙和くんが私を傷つけるはずないもの。



「……うん、気づいてるよ、理由は分からないけど乙和くんの気持ちは分かってるよ」



私はそう言って乙和くんの背中に手を回した。やっぱりどこか、乙和くんの体は痩せていた…。



「私のこと、好きだから…。私を想って別れようって言ってるのも、分かってるよ……」


「…はる、…」


「…、」


「ごめん…」


「うん…」


「はるに迷惑かけたくない…」


「分かってる……」


「はる、顔見せて…」




私の体をゆっくりと離した乙和くんは、自身の眼鏡を外すと、まるで私の顔を目に焼き付けるように見つめた。



ずっと見つめている乙和くんは、泣いていた……。



「もっと見せて」


「とわくん…」



乙和くんの手が、私の頬にふれる。



「……俺も好き、大好き……」


「っ、…」


「弱かった俺を許して……」


「と、わ…」




私の顔を至近距離で見つめていた乙和くんは、そのまま私にキスをしてくると、「かお、みせて…」と、何度も同じような言葉を呟いた。





乙和くんは、何があったのか、何の病気なのか、教えてくれなかった。



完全に私を断ち切った乙和くんとの関係は、終わった。

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