第14話

大好きな恋人の声なのに、その声は違和感だらけで。いつも通りの声なのに、その声は少しかさついていた。



「乙和くん…」



乙和くんの名前を呟くと、向こうから少しだけ声が止まり。



『…ごめん、連絡できなくて』


「……ううん、体調大丈夫?」


『うん…』


「心配したよ、…返事こないから…」


『ごめん……』



乙和くんの声は、止まった。

何も言わなくなった。

けれども電話は繋がっていて。

これから何を言おうか迷ってるらしい彼。



だから「乙和くん」ともう一度名前を呼んだ。けれども彼の声は聞こえない。


聞こえたのは、いつか。



『……別れてほしい……』



と、乙和くんの悲しそうな声が聞こえたのは。




胸が苦しくなる。

心のどこかで〝やっぱり〟っていう気持ちがあったのか、それほど驚くことは無かった。


けれども〝どうして〟っていう気持ちが9割以上あって。



どうしてそんなこというの?

どうして嘘をつくの?

どうして私には言えないの?



どうして?



「…私のこと、きらいになったから?」


『…はる…』


「きらいになっちゃった…?」


『……うん、……』



うそつき…。

乙和くんは、〝きらい〟と言えない優しい人だって知ってるのに。



「どうして…、どこが嫌だった…?」



乙和くんの声が聞こえない…。



「なにがあったの…」


『ごめん…』


「私が、かわいくないから…?」


『……』


「めがねだから…?」


『……ごめん』


「……乙和くん」


『…はる…』


「別れたくないよ……」


『ごめん……』


「どうして…」


『……』



息が飲む音が聞こえた。

〝乙和くんが泣いている〟

そんな気がして。




「大好きだよ…乙和くん」




いつの間にか電話は切れていた。


気づけば私もポロポロと涙が流れていた。



通話が切れる前、『…大丈夫か乙和』と、小山くんの声が聞こえたような気がした。

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