第10話

毎日毎日、私に愛の言葉を伝えてくれる恋人。


本当にこんなにも幸せでいいのかな?って思う時がある。




「行こっか、そろそろ着替えないと」



お昼ご飯を食べ終えたあと、乙和くんが荷物を持ちながらベンチから立ち上がった。


私も乙和くんを追うように、鞄を持ちゆっくり立ち上がろうとした時だった。


乙和くんの手が、私の手を握ろうとしてきたから。


いつものように乙和くんの手に手を伸ばし、繋ごうとした時──…



「はる?!」



と、大きく私の方に、乙和くんが振り返ったのは。目を見開き、まるですごく驚いたように私の事を見る乙和くんに、私まで驚いて。



「ど、どうしたの?」



いきなりの乙和くんの異変に、吃りながら答えると、次の瞬間にはホッとしたような表情に変わった。



なに?

私はそう思って顔を傾けた。

何か驚く事があったのだろうか?

そう思って立ち上がった足などを見ても、何も無くて。



「あ、…ごめん、」



どうしてか謝ってきた乙和くんは、安心した表情をしながら今度こそ私の手を握った。



「どうかしたの?」



そう聞きながら、乙和くんと校舎内に戻る。



「ううん、なんでもないよ」



なんでもない?

それなのに、あんなにも驚いたの?



「でも、すごく驚いてなかった?」


「なんか、一瞬はるが消えたように見えただけ」



消えた?

私が?

ずっと乙和くんのそばにいたのに?



「そうなの?」


「うん、いや、消えたって言うか、はるがいたのは分かったんだけど…」


「?」


「手を伸ばして、手を繋ごうとしたのに、なくて…あれ?みたいな」


「ごめん、私が急に立ち上がったからだね…」


「違う違う!俺が悪い、──…驚かせてごめん」



少し笑った乙和くんは、私の手を強く握った。



「行こう」



その力は、いつもより強く。




この時の私はまだ気づいていなかった。


乙和くんの異変に。

ううん、サインは前から出ていたのに。

私に、初めて話しかけてくれた頃から。




もしかすると、乙和くんはこの時から〝おかしい〟と思っていたのかもしれない…。

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