第9話

2人っきりで、乙和くんとお昼を食べている最中だった。



「とわぁ!」



と、小山くんの声が届いたのは。

ぴくりと反応した乙和くんは、校舎内にいる小山くんの方を見た。

乙和くんに向かって大きく手をふっている小山くんは、もう一度「乙和!小町さ〜ん!

」と呼んできて。



「なにー?」



と、もう半分ほどお昼を食べている乙和くんは大きな声で返事をする。



「今日の体育、男は、運動場に変更だってさ〜!女子が体育館!」



どうやら内容は、5時間目の体育の場所が変更らしくて。

わざわざそれを言いに来てくれた小山くんに乙和くんは「りょ〜かい〜」と、手をふった。


私にも、言いに来てくれたらしい小山くん。



「野球だってさー」


「分かった〜、ありがとー」



小山くんは校舎内に消えていき、乙和くんは少しテンション高めに「やった、野球だって」と、また1口とご飯を口の中に入れた。



「優しいね、小山くん。言いに来てくれたんだね」



私にも。



「うん、勇心はすげぇ良い奴だから」



本当に嬉しそうな乙和くんは、本当に小山くんが好きなのだと思い。



「野球好きなの?」


「うん、小さい頃リトルやってたから、それなりにできるよ」


「そうなの?すごいね」


「今はもうやってないけどね、たまに勇心の弟と、近所の子と遊んでる」


「小山くん、弟さんいるの?」


「いるよ、キャッチボールとか。投げ方教えてる」



ふふ、と笑った乙和くんは、「俺、一人っ子だから。兄弟とか凄い憧れる。結構、子供好きだから」と、私を見つめながら言う。



誰からも好かれる乙和くんは、小さい子からも好かれるらしく。



「だから将来、自分の子供とキャッチボールするのが夢だったりするかな」



自分の子供…。



「はるが弁当作ってくれて、それ持ってみんなで公園行って、俺と子供がキャッチボールして。男でも女の子でも、2人は欲しいな…。はるの子は可愛いんだろうな…」



それって…。

将来のことを思い描く乙和くん。

恥ずかしくなりながら、「乙和くんがかっこいいからだよ……」と頬を染めた。



私の言葉に、嬉しそうに、綻ばせた乙和くんは「でも、その前に沢山デートしようね」と、食べる手を止めて、私の手を握った。



「うん」


「花火大会、行こうね」


「うん」


「はるの浴衣姿、見たいな」


「うん、着ていくね」


「秋は遠出して…土日挟んで」


「うん」


「冬はイルミネーションな」


「うん、楽しみだなぁ…」


「想像するだけで、めっちゃ幸せだわ」



本当に幸せそうにする乙和くんは、「はる、大好きだよ」と甘い言葉を呟いた。

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