第9話

何事もなく時間が過ぎていく。

特に遊ぼうとは思わなかった。

好きにしていい、らしい。

けど、その〝好き〟にまでたどり着かなればどうすればいいのかと。



そう思いながら、スマホをさわる。

ちなみにこのスマホは俺のじゃない。


支給されたスマホは、ここの建物内しか使えないらしい。まあ、いわゆる内線みたいなものだろう。

登録の項目には、それぞれの名前があった。

たぶん、ここに住んでる異常性癖者。



〝しょう〟

〝なぎ〟

〝すず〟



全て、ひらがなで登録されている。



〝あま〟

〝かいき〟




とりあえず、見たことがない男が残り2人、いるらしい……。




そのうちの一人、〝あま〟に出会ったのは、1階の浴室だった。

お風呂に入ろうと思い、浴室に行ったのがきっかけ。

俺と同じぐらいの背の高さに、茶色の髪をし、熱心に熱心に洗面所で手を洗っていた。


いや、手の中の何かを洗っていた。

俺の足音に、誰かが来たと思ったらしい、後ろに振り向いた男は、やっぱり俺と同じ歳ほど。


もしかするとここは、〝少年犯罪〟を防ぐためもあるかもしれない…。



「うわ、びっくりした、あ、ここ使う?」



こいつも、まるで普通。

見た目は普通。

ただ頭がイカれてるだけ…。



「いや、風呂入りにきた。洗面台は使わない」



そう言って服を脱ごうとした時、「確か、あんたは〝ちひろ〟だったかな?スマホに新しく載ってたよ」と、その手の中の何かをガーゼで拭いていた。



「うん、そう」



そのまま上半身の服を脱ぐ。



「よろしく、俺はアマ。確か3日前から来てるんだったかな?もう慣れた?」



にこりと笑いながら、ゆっくりと近づいてくる。



「慣れたよ。ある程度は。寝てばっかだけど…。それほど困ることは無いし」


「そうじゃなくてさ?ここのシステム」


「…システム?」


「あれ、まだ試してないの?自分の性癖」


「…」


「俺ので良かったらあげようか?まだ2階で彷徨いてるはずだし。まだ誰かに渡ってなければ生きてると思うから」


「彷徨いてる?」


「もしかして2階も行ったことない?」


「…」


「2階は処理部屋だから、死体もあって結構ぐろいし、初めて行く時はご飯抜いた方がいいよ。多分吐くから」


「…血まみれってこと?」


「そういうこと」



当たり前に言うアマに、「じゃあ、お前もその帰り?」と聞けば、「もちろん」と、俺にそれを見せてきた。




丸くて、白い物体。


俺を見てくる、ふたつの目。



黙り込んでいると、



「ああ、眼球を見るのは初めて?」と、にっこりと微笑むアマ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る