第76話

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「明日、あの子を解放する」



そう言った晴陽に、頷いたのはナナ。



「俺はもう、お前を霧島と会わせるつもりない」



それに対しても、ナナは頷く。



「学校であっても無視しろ。命令だ、分かったな」


「…分かってる、そのかわり」



ナナが、晴陽を、細めた目で見つめる。

その目にはもう、光は宿っていなかった。



「言わないよ。〝あの時〟のことは2人だけの秘密だ。そうだろ柚李」



柚李と呼ばれた男は、静かに瞼を閉じた。



「優しいよほんとにお前は。もう霧島は切ったんだ、俺に従わなくていいのにな」


「黙れよ…」


「切っても尚、霧島が大事か?」


「黙れ」


「でもまあ、お前は霧島を本当に捨てても、俺からは離れられないよ」


「……どういう意味だ?」



視線をあげたナナは、指に煙草を挟む晴陽を細い目で見つめた。相変わらず、目付きが悪い男。




「お前はもう月に情がうつってる、月がここにいる限りお前はずっといるだろ?」




その言葉に、目を見開いたナナは、「お前っ」と掴みかかる。

それでも眉を動かさない晴陽は、煙草を口にくわえた。



「解放すんだろ!!?」


「俺はな」


「じゃあなんでっ、……」



そこではっと気づく。

1人の男の存在を。

キチガイ野郎。



──…流雨…。



閉じ込めて、支配する流雨。強欲…。

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