第62話

────その日の夜は、扉が開いていた。

開いているってことはつまり、向こうに音が良く聞こえるってこと。

誰がいるか知らない、分からない。ここからは見えない。




「やっ、いやっ……」


「傷、痛いだろ? あんま動くな」



怪我なんか、ないのに。

どこも痛くないのに。

来た初日にあった捻挫も、治っているのに。

まるで外に聞こえるようにその人は言う。



なんで、いや、なんでっ、また…!


ここにいる人はこういうことばかり。

暴走族、レイプが当たり前…



私を動かさないように、なのか。

後ろから、横になっている私のお尻の下辺りに跨いでいるその人は、ゆっくりゆっくり腰を動かす。

寝バックという、体位。

必死に掴んでいるのは、枕。

肩を起こそうとしても、その人が「怪我、酷くなる」と、わざわざ包帯をさするふりをしておしつけてくる。



「ちゃんと舐めたし、濡れてるし、そこまで痛くないだろ」


「いた、いっ…」


「うそつき、くわえんの上手だと思うけど?」



何もしないって言ったのに…。

解放してくれるって言ったのに…。

ずっと泣く私は「やめて…」と枕に顔を埋めた。ポロポロと次々涙が出てくるせいで、枕がびしょびしょになっていく…。



ゆっくり、激しくない動きで律動するその人は、「かわいいね」と私の頭をするりと撫でた。



それが嫌で、泣きながら振り返り睨みつけ、彼に腕を伸ばせば「なに?」と、ふっと、笑った男が私の上半身に手をのばし。

胸とシーツの間に手のひらを忍び込ませ、そこをやわやわと包む。

「っ、」と、妙な感覚と、嫌すぎる気持ち悪さに「やめてっ、!」って叫ぶけど、その人は機嫌よさそうにして全く離してくれない。


その間も、律動は続く。





「胸、開発してあげようか?」


「いやっ…」


「しやすそうな胸してるけど」


「やめてっ、やめ……っ、…」


「月」


「よぉ晴陽、何してんの?」



その時、だった。

開かれている扉から、赤い眼鏡の男性が顔を覗かせたのは。ビクッ、と、驚きと戸惑いで体が震えた瞬間、私の体を跨ぐ彼が笑った。




「なにって、セックス?」


「昨日その子、流雨にやられてなかった?」



まるで、この行為に関して何とも思ってない顔をしている男が、流雨の名前を出した。



「そ、俺、昼ずっと慰めてたし?まあそれで気に入っちゃったんだけど」


「どこを?」


「ふつーにこの子、気に入った。もう流雨のじゃねぇし俺が貰おうかな」

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