第60話

「もう、やだ…」



辛くて辛くて涙を流してしまう…。

本当にかえりたい……。

何も怪我なんてしてないのに、包帯や湿布を貼っている意味も分からない…。



「何がやだ?」



分かってるくせに…そんなことを聞く…。



「こわい、…こわい…」


「俺?」


「ゆ、ゆうり、さんは…」


「柚李?」


「あの、ひと…、へやに、いて、ほしい…」


「なに、俺じゃ不服なの?」


「あの人、いがい…みんな、こわい…」


「あー…、いつもナナが助けてくれるもんな?」


「ここから出して……」


「そうかー、月ちゃんは流雨じゃなくてナナ派か。助けられて好きとか言っちゃう?」


「っ、…あなたはいやって言ってるのっ!」


「そんな口きいていいと思ってる?俺一応、ここの総長なんだよね? 廻せって言えば、下のやつら全員でお前のこと廻すよ?」




柔らかい笑顔をしたまま、恐ろしいことを簡単に言う。廻す…廻される…。泣きながら…もう、いや……と、視線を下に向けてだまりこめば。




「俺が頼んでるんだよ、分かった?」



頬にあった指先で、顔をあげられた。

背筋が、ぴんと、はる。

至近距離にある、ハルヒの顔。



「…やっ……」


「ナナはむり、俺で我慢して」


「っ、こわい………」


「怖かったら文句言ってくんじゃねぇよ」



急に怖い口調になったハルヒに驚き、少し視線を上げれば、笑っている男がいて。


ひ、と、涙をポロポロ流し。




「ちゃんと解放してやるよ、〝俺はな〟」




そう言ったハルヒは、ようやく私から手を離した。

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