第53話

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「中、見とくって言ってよな?どういうつもりだ晴陽」


その真夜中、2人きり。

ナナは晴陽という男に対して怒っていた。それは昨日の夜、2人きりの会話で決まっていたことを晴陽が破ったからだった。



「見てたけど?」



見てた。見てたなら、止めるはずだろ。

悲鳴が聞こえてたくせにお前は止めなかっただろう!と、怒鳴る。

流雨が一芝居をうっていたことは、ナナしか知らない。

つまり、晴陽は黙って月を助けなかったという事になる。



「流雨が女に──…っ」


「別に何もされてねぇんだろ?」



ふ、と、笑った晴陽は、煙草を取り出しそれを口にくわえる。ヘビースモーカーの男は、「精神的にやばいって…包帯と湿布だけで済むはずねぇし」と、軽い口調で言う。



「それに流雨はしねえよ、あいつがキレてたら叫び声出す前に殺ってる。あんなにも長く声が聞こえてた、つまり、流雨はただ遊んでただけ。違うか?」



白い煙を出す晴陽に、顔をしかめるナナ。



「怪我、ホントにしてんのか?」


「晴陽…」


「どうせ何もねぇ所に包帯まくんだろ?アザが無いのを隠すために」




流雨の一芝居を、全て分かってる晴陽はまた煙を吸い。



呑気に晴陽は「分かってはいたけど流雨は白かぁ…」とまた煙を出す。



「〝誰かさん〟は、ルウを怒らせて何をしたかったんだろうねぇ?」

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