第50話

急いでたまり場に向かい、中にいたそいつらを無視して、奥の扉を開けた。



中にいたのは、分かってはいたけど2人だけ。

流雨と月。

月の服ははだけ、肌も見えており。

顔を真っ赤にして涙を流していた。はあはあ、と、息が乱れ。「っ、う…」とずっとずっと、滝のように涙を流す月の体に覆い被さるようにしているのは、流雨。


どこからどう見ても月の体をおさえている流雨に近づき、「何してるっ、」とそいつの服を掴んだ。

鋭く俺を睨みつけてくる流雨。

服の乱れはない。けど女は泣いてる。

こいつが何かをしたのかは、事実。

何をした?



「なに、ナナ、ナナも混ざりたいの?」


「こいつじゃねぇのは分かるだろ!!」



──後ろの方で、バタン、と扉が閉まった。

向こうにいるのはだれも月を助けない男たち。


晴陽も、

霧島にも言ったのに。

なんであいつらは──…


ギリ、と奥歯を噛み締めた。



「何が?」


「お前のこと怖がってんのにお前のザリガニを殺すと思うか?!」


「…」


「こいつじゃねぇよっ!!」



流雨の服を雑に離し、「どけ」と流雨の体を押した。そしてマジマジと女の体を見つめた。乱れた服。止まらない涙。それでもそういう、〝乱れ〟は無く。


やってねぇ?

じゃあ何したと、流雨の方を見れば。

ふ…と笑った流雨は、月の足を掴み。



「分かってるよ?それぐらい。俺のかわいい月が俺のかわいいシャーロットを殺すはずないでしょ」



小さな声で、そう言った。

外に漏れないように。

流雨の指先が、女の足をなぞり。

ひゃっ、と、小さな悲鳴が聞こえた思えば、「や、やめっ、っああっ…」と鼻声混じりの、叫び声が出て。

「笑っちゃだめだよ」と、小さな声を出した流雨は、自身の指先を女の口に入れ、〝笑う悲鳴〟が起こりそうになった時、流雨は女の舌を掴んでいた。


それが終われば舌を解放し、また、涙を流す叫び声が出たと思ったら、笑う前に流雨が舌を掴み──…。


こしょこしょと、女の足の裏、脇をこしょこしょとこそばす流雨に、は……?とぽかんとしてしまい。



「や、っ、ったあっ、そこ、やめっ…、っぐっ、…」


「誰かが俺の月に罪を被せて、俺に殺させるつもりなんでしょ?」


「やっ、やめっ、ひっ…!っあ」


「俺はそこまで馬鹿じゃないよ」



ふふ、と笑った流雨は、脇をくすぐる手を止め。

はあはあと、顔を赤くして、「も、やめて…」と顔を赤くする女…を見た、と思えば。



「お前らの中に俺の月を殺したいやつがいるみたい」



愛おしそうに、はあはあと、息切れする月の頬を撫で。



「…流雨?」


「それとも、利用…かな?」


「……」


「そいつがシャーロットを殺したんだよ」



〝何かを悟っている〟らしい流雨。



「お前、ずっと、くすぐってたのか?」



外に聞こえないよう、小声で話す。



「そうだよ、襲って聞こえるように」



いまの、くすぐりみたいに?

外の3人に、そう聞こえるように?



「まあ、〝犯人〟はだいたい分かってる、でも〝もう1人〟が分からない」


「…お前」


「ナナもちがう…」


「…流雨、」


「お前は〝お優しい〟から、動物を殺さないからね」

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