yuri side

第48話

──柚李side





「…お兄ちゃん」



小さな声が聞こえ、玄関で靴を履いている途中、後ろを振り向いた。

俺の事を〝兄〟と呼ぶのは、この世でたった1人。


俺とは違い、少しため目の瞳を持つ弟。

まだランドセルを背負う歳…。



「…今日もどこか行くの?帰ってこないの?」



視線を下にさげ、寂しそうな顔をする7つ下のそいつは、ゆっくりと近づいてくる。



「…杏李あんり


「昨日の夜もいなかったのに…」


「ごめんな、もう少ししたら家にいれるから」


「いかないでよ…」


「寂しいか?」


「お兄ちゃん、いつも帰ってきた時ケガしてるもん」


「そうか?」


「そうだよっ!」



寂しそうな顔をする杏李は、今度は怒っている顔に変わり。それに微笑んだ俺は弟の頭を撫でる。



「もう少しすれば、終わるから。な?」


「ほんとう?」



上目遣いで見つめてくる目はやっぱり俺と似てない…。どこからどう見ても母親似…。



「じゃあ、待ってるね。帰ってきたら宿題一緒にしようね」



──…にこ、と、笑った杏李を見て。心のどこかで自分の小学生の時を思い出していた。

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