第18話

「ふふ、御幸こそ、こーんにも可愛い月を分からないなんて頭おかしいんじゃない?」



ね?と、笑ってくる流雨。

そんな流雨は机の上にケーキに手を呼ばすと、少しケーキをフォークにさし「あーん」と私に差し出してきた。



どこからどう見ても、チョコレートケーキ…。



「いや、お前何があったんだよ? 昨日お前その子に小便かけてたじゃん?」


「ちょっともうやめてよ。昨日の俺はどうかしてたんだよ。こんなにも可愛い月を便器扱いするなんてほんとに…マジで昨日の俺死ねって感じ。ほら口開けて?」


「その子、明日俺だよな?」


「何言ってるの、俺のだよ。貸さないに決まってるじゃん。ねぇ、月、今日は俺と一緒に寝ようね?」



にこにこにこにこ。

ケーキを差し出す流雨は、「もしかして、甘いのキライ?」と、しゅん…と子犬のように可愛い顔の眉を下げた。



「あ、の、」


「何が好き? 買ってきてあげる。苺とか?ねぇ御幸買ってきてよ」


「なんで俺が」


「だってお前ジャマなんだもん、俺と月の」



流雨はそう言うと、チョコレートケーキを、1口含み。



「まあ、」



ヘラりと、笑う。



「ジャマといえば、ナナもだけどね」



ナナ。

七渡柚李…。


私の味方をしてくれる…名前を出した流雨の足の上で一瞬、ぴく、と動いた私を見て。


流雨の大きな目が細められた事に気づかず。



「お前ほんとナナの事嫌いだよな」


「嫌いだよ、何のために族やってんの?」


「さあ?」


「族って、頭おかしい奴がなるもんじゃん?」


「それ超ブーメラン」


「頭おかしくなかったら、ここにはいらないよ」




チョコレートケーキ。

ホールの、チョコレートケーキ。


そこへ乱暴にフォークを突き刺した流雨は、「はるぴ、早くナナ解雇してくんねぇかなぁ?」と、1口分すくい上げると、それを口に含んだ。




「晴陽、なんだかんだナナの事気に入ってるしな」


「けんか強いからでしょ」


「うーん、」


「はるぴも早く頭おかしくなんねぇかな…」


「あいつはおかしいだろ」


「そう?」


「族を作った人間だぞ?おかしいに決まってる」


「あーたしかに、そうかも。みゆっきーいいこと言う」



「だれがみゆっきーだ」



クスクス笑う流雨と、意味深な笑みを浮かべる御幸という男…。

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