第17話

それからは、さっき言った通り。

私の中に老廃物を排出させた事がある男は、カタカタ、と、震える私を膝の上に置き、「ごめんね、君の魅力に気づなかった俺が悪かったね、よく見るとすごく可愛い顔してる」と細い指先で頬を撫でる。




「俺、地味な子大好きだよ」



地味、



「ねぇ、もうそんな震えないで?服着せたから寒くないでしょ? 」



着た、と言っても。

この流雨が怖くて、震えているのが分からないのか。



「そういえば、名前聞いてないなあ。名前教えて? 俺はさっき言ったとおり流雨ね」


「っ、」


「恥ずかしくて言えない?可愛いなあ」




うっとりとする男は、幸せそうに笑い。

「別に調べてもいいんだけど、俺は君の口から聞きたいなあ」と、なぜが頬に唇を寄せられる。



びく、びく、と、涙目になる私は、「…な、です、」と、震えた声で言った。



「ん?なんて?」


「…、るな、です」


「ルナ?」


「は、い」


「可愛い名前、俺と1文字違いなの?すごく運命感じちゃう。漢字はどう書くの?」


「つき、と、書いて…るなと…」


るなね、かわいい。教えてくれてありがとう」




ちゅ、と、軽いリップ音が、頬から聞こえた。

びく、と、震える私に「月…」ともう1回愛おしそうに呟くと「ほんとうにごめんね」と、大きい瞳で私を見つめ。




「ザリガニ好きの女の子に、わるい子なんていないのにね」



そう言って…流雨の唇が、私の唇を狙っているのに気づき。「っ、」と、顔を顰め、やだ…とその人の体を押そうとした時だった。





「────…なに、してんの?」という、誰かの声が聞こえ。



それに気づいた流雨が、私の顔のそばで舌打ちをし。邪魔された事に怒ったのか、大きい目を鋭くさせ、この部屋に入ってきたその人物を睨みつけた。



「ジャマ、御幸」




赤いお洒落な眼鏡をかけ、パーマがかかり遊ばせているブラウンの髪を揺らしながら、どこかのブレザーの制服をきている男は、眼鏡の奥で目を丸くさせていた。



「いやいや、なにしてんの流雨」


「一緒にケーキ食べるの」


「晴陽に出すな、って言われてたよな?」


「俺運命の子に出会っちゃった」


「…うんめい?」



ミユキ、と呼ばれた男は、眉を寄せる。

何言ってんの、という顔をするその男は「…ついに頭イカれたか?」と、中に入ってくる。

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