第6話

は、と、怖くて後ずさり、棚に背が当たった私は、ずるずるとそこに尻もちをついた。



「うーん? でも、あんまり可愛くないよね?守られてる姫とか、こういうのってすごく可愛いもんじゃないの? 地味の中の地味って感じ」



私に手を伸ばしてきたその人は、血の、ついた、その手で私の前髪をかきあげるように掴むと、「名前」と鋭く言う。




「な、まえ…」



そう呟いた私の声は、震えていた。



「うん」


「あ、の、」


「ん?」


「ご、かい、です」


「うん?」



目の大きいその人は、「誤解?」と可愛らしく首を傾げながら、膝をおってしゃがみこむ。



「わた、し、はじめて、ここにきて、…」


「うんうん」


「む、むかんけ、い、で…」


「無関係?」


「は、はい、」



冷や汗が止まらない。

体の震えが止まらない。



私は、頭の良さは普通だけど。

決して馬鹿ではない。



多分、この人は、


この人達は。



〝ここ〟の暴走族の、〝敵〟。





「無関係のオンナが、総長のお部屋で何をしてるの?」




そう言われた時だと思う。




私の前髪がその人に寄るように引かれたと思ったら、──ガン!!!、と、勢いよく、後ろの棚に頭をぶつけられていた。




ぐわんぐわん、と、脳が揺れ。




脳震盪を起こしてしまったらしい私の頭は、ぼす、と、ルウという男の胸元に飛び込む形になった。



気を、失う前の、その感覚。




「はい、アウト。霧島パス」



面白そうに、呟いた男…。




全く、フラフラして動かない私の体は、多分、霧島という男の肩に、背の曲がったエビのように抱えられた、ような気がする。

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