第3話

──たまり場…


それが多分、すごく〝普通〟じゃないことが分かる。


大丈夫です、大丈夫ですと言っているのに、その人は「ちょっと待って!原付起こしてくる!」と何故かニコニコした笑顔でそれを言い、地面に横になっている原付を起こしたあと、私の元へやってくる。




「はい、乗って!乗れる?乗せた方がいい?足大丈夫?!」


「や、ほんとに、大丈夫…1人で帰れます…」



というか、原付って、2人乗り禁止…。



「だめだめ!あとから骨折してました、とか困るし!」


「というか2人乗りは…」


「大丈夫!」


「ヘルメット…」


「あ、つけるタイプ? 大丈夫大丈夫! あんま見回ってないとこ走るから!」


「……あの、ほんとに大丈夫…」


「あ、もしかして門限とか?」


「…はい」


「大丈夫!怒られれば俺が君の親に頭さげてあげる!」




変、だと思わないのだろうか?

見ず知らずの女に、こんなにも人見知りがなく接してくることを。



「ほら、乗って!」





────気づけば、その人の後ろに乗っていた。

悪い人、なんだろうけど。

性格的に〝悪い人〟ではないと悟った私は、とりあえず治療だけ…と、男の話に乗ったけど。



その数分後には、後悔することになる。




「ごめんね〜!もうすぐつくから!」と原付を走らせながら、私に振り返ってそれを言ってくるから。



「前見て前!!」


「あははっ、それだけ元気あれば大丈夫そ〜!」


「だから前見て!!」


「そう言えば名前なんて言うの〜?」


「ぎゃー!!当たる!!」


「え? あ、やばいやばい」



楽しそうにしている彼に、足よりも心臓の方がどうにかなりそうだった。






走ること10分ほど、〝その場〟につき、「ほんとにごめんね、手当したら家まで送り届けるね」と、笑った彼は、「足痛いよね?おんぶしてあげる」としゃがみこみながら私に背を向け、られたけど。



〝その場〟に凍りついている私は、立ち尽くしたままで。



それに気づいた彼が声を出して笑った。



「あ、族初めて、だよね? びっくりした?! 大丈夫大丈夫!俺らは平和の暴走族だから!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る