第91話

「それを言うなら、俺たちは紙の関係だけだ」



ケイシが、腕をのばし煙草の火を消した。



まだ抱きしめたままの私に、「分かってるのか?」と告げる。



分かってるのか…。



「…もうピルも準備しねぇ」と、低く呟く。



その言葉の意味は…。



「分かってます…」


「分かってねぇだろ」


「だって…こうすれば、誰も死ぬことは無いんでしょう?」



そうなんでしょ?

だからユウリは私から離れた。選ばなかった。けれどもずっとそばにいてくれるらしい…。



「……ユウリさんが好きです、でも、あなたが死ぬのもいやです……」


「…」


「わたし、まだ正直分かってなくて…」


「……」


「どうすればいいんですか……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……、ユウリさんは、すごく優しいから、ほんとうに優しいから、私の事を想って…私をケイシさんを選ぶように言うんです…」


「……」


「わたし……」


「お前は狙われてる、ユウリの女だと…。だからこそ上はお前を俺の女にした。俺だと囲いがあるから。──…俺はその狙ったやつを殺したい、ずっとそいつに復讐したいと思ってた、そこまでは分かるか?」



狙われている…。

ユウリの女だと。

だからケイシの女にした。



「5年間、ずっと殺したかった男だ」



ずっと殺したかった男。

ケイシが好きだった女性を狙った人と、今回私を狙っているらしい人と、同一人物…。



「正直、お前が俺を死なせたくないって言っても、──…気持ちは変わらない。その男を始末するまでは」



始末するまでは…。



「……お前はユウリといるべきだ」



ケイシは私の手を握り、無理矢理引き剥がす。



「俺が怖いんだろ……。今も震えるし。つか泣いてる女を見たくないのが本音。…もうお前のことは抱けない…」


「ケイシさん…」


「男を始末すれば、お前はもう安全になる。安心してユウリのところに行けるだろ」



…そんなの、ケイシさんは?

その後は?



「お前を解放すれば、ユウリも抜ける。カタギになってその辺で暮らせばいい。抜けるのは大変だろうけどあいつならやれる。まだ入ったばっかだしな」


「……、だめです…そんなの」


「もう決めた」


「……わ、私は、あなたの、妻です…、そんな勝手なことしないで…」


「離婚届も婚姻届出したその日に書いてる。そこの引き出しに入ってる」


「ケイシさん、」


「……お前に、夜の世界は似合わないよ」

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