第89話

ユウリがシイナを選ばなかった理由は、それだけじゃないことを、彼女は気づくことができなかった。



シイナを裏切ったユウリは、シイナに優しい冷たさを見せた。



復讐する相手が、〝父親〟ということを、秘密にし。


いつまでも大好きな〝父親〟でいてほしいと願ったからだった。



それに……



シイナがケイシを受け入れれば、もしかすれば……と、彼は思い、




「ユウリさん…お願い……」



泣きながら、ユウリの服を掴む…。



「キス、したい」



その服を、軽く引き寄せる。



「いちばん、近くで…」



そのまま顔を上にあげ、ユウリを見つめる。



「ユウリさんの顔が見たい……」



ぼやけてるのは、瞳のせいなのか、涙のせいなのか。



「1回だけ……、初めてのキスは…ユウリさんがいい……最後だから……」




好きな女に、泣きながら懇願され、その顔を引き寄せようになるも、──…してはいけないと、後戻りができなくなると、男の手が止まる。



「………ごめんな…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る