第88話

──…ユウリは、ゆっくりとそれを教えてくれた。昔、ケイシには好きな女性がいたと。その女性は私と同じような売り物になり、体を売り病気になって自殺してしまったと。

けど、売り物になった原因は、ケイシに関係していたらしく。

ケイシはずっと、女性を売った人に復讐するつもりだった。

組にいて、自分を拾ってくれた上の人に従い、その機会を待っていたこと。

そのためには何でもし、好きでもない女と結婚して、抱くこともした。

上の言うことは絶対に聞いていた、と。


…それが私のことだと、聞くまでもなかった。



私の事を、「抱きたくねぇ」と、確かに彼は言っていた…。





「ケイシさん、風俗にも関わってて。ボディーガードっつーの?女の子に危険がないよう徹底してたらしい。病気とかも…検査するその金はケイシさんが回してるらしくて。タダでやらせてるってタカさんが言ってた。病気になったら治療費も出してるらしい」



私が売られるはずだった店…



「復讐相手が分かった今、ケイシさんはそいつを殺して、自分も死のうとしてる」



死のうと…

ケイシが?



「……ユウリさん、こんな大事なこと、私に話していいの?」


「…ああ、シイナは知るべきだと思う」



ケイシの過去を知り、人を殺め、自殺しようとしていることを?


知るべき…。


それはどうして?


私が、ケイシの嫁だから?



それとも、




「……凄く、ケイシさんを良いように言うんだね…」


「シイナ…」


「分かってる、ユウリさんの言いたいことは…。ケイシさんすごくいい人だって…。それを隠してたって…」


「…」


「ユウリさん、この前言ってた私に〝好き〟っていうの、……私に言わないつもりでしょう?」



私は、ユウリの顔を見た。

見たいのに、ユウリの顔が見えない…。



「……あの人、あんたに気持ちが全く無いってわけじゃないと思う」


「…ユウリさん……」


「あの人のそばにいてくれないか」



あの人…、ケイシのそばに…。

ユウリが言いたいことが分かってしまう。



「絶対、シイナを大事にしてくれると思う」



大事に…。

そう言われても。


私が好きなのは──…



ユウリなのに…。




「俺はずっとお前のそばにいる」


「……ユウリ…さん」


「…ずっといる」


「……すき、なの…」


「……生きてさえ、してくれればいい…」


「私は…ずっとケイシさんのものなの?」


「……」


「ユウリさんのに、ならないの?」


「…ならない」


「…私は、その女性のかわりなの…?」


「違う、お前はお前だ、代わりじゃない」



だったら…。


でも、私がユウリと一緒になれば、ケイシは死んでしまうかもしれないの…?


ケイシと一緒になれば、ケイシは生きようとするの?


復讐が叶えば……。



「ユウリさんは、…私よりも、ケイシさんの気持ちが大事なの…?」


「……シイナ」


「…」


「……お前に〝好き〟は言わない。分かったな?」



ユウリの言葉に、それ以上何も言えなかった。

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