第85話
「少しでいい…、このままでいさせてくれ…」
そう言ったケイシの喉は、やっぱり枯れているけど。
だけどその中には苦しみが紛れていた。
「……っ、」と息を飲む音も聞こえ。
私の体の震えは止まってきているのに、どうしてかその震えは続いたままで。
その震えは、後ろから来ていた。
だからケイシが泣いていると、そう気づくのに時間はかからなかった。
ケイシが泣くたびに、私は強く抱きしめられる。
「………まだ…酔ってるんですか…?」と、空の色が変わっていく中それを聞いた。
ケイシはまたしばらく抱きしめると、「…あぁ…」と呟いた。
「……酔ってる、」
「ケイシさん…」
「ずっとこうしたかった……」
ずっと?
「見せたかった……」
見せたかった……。
なにを……。
この景色を?
…誰に見せたかったんですか?
きっと、私でない誰かだと思ったから、それは聞くことができなかった。
いつもはケロッとしてると言っていたのに。全くそんな素振りを見せないケイシは、ユウリが来るまで私を抱きしめていた。
ユウリが来て、我に返ったようにシャワーを浴びたケイシが、朝早くに外へ出ていく。
「…おはよう」と、言ったユウリの声は、やっぱり枯れていた。
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