第84話
そのまま眠りについてしまったらしいケイシは、水が入ったペットボトルを持ったままだった。
いつも私が座っている定位置のソファに、ケイシが眠っている。
いつもいつも、ここで私を抱いているケイシが眠っているなんて変な気もしたけど。
ベットで眠る事が嫌な私が、ベットで眠るなんて出来なくて。かといって、このまま眠っているケイシのそばにいるのもおかしいから。
私は窓際の端の方に座った。
私の目は、まだ時計が見えない。
だから窓から見える景色が時計変わりだった。
いつも家にいてぼんやりとしているからか、フローリングに座っている私はその日の夜は眠ることはなくて。
タカは来ないと言っていたけど、きっとユウリなら必ず来てくれるはずだから。
私は膝をおり3角座りをしながら、朝が来るのを待った。
黒から、次第に淡い色に変わっていく。
太陽が登りかけていく。
きっと今が5時ぐらいだから、あと2時間ぐらいでユウリが来てくれる、そう思いながら、少しだけウトウトとし始めた時だった。
──…背後から、ドン、と、何かが落ちる音が聞こえたのは。
ビックリして、後ろに向くけど、見えるのはソファと誰かが寝ているってだけで、それしか見えなかった。何が落ちたのか分からない。
けど、ソファで眠っていた彼はその音で起きたらしく、ゆっくりと体を起こし、腕らしいものが下に伸びる。ソファの下に落ちたものを拾ったらしく…。
ああ、ペットボトルを落としたのかと、そう思ったのに時間はかからなかった。
パキ、と音がした。
ペットボトルの蓋を開ける音。
私が用意した水を飲んだらしい。
「……何時だ……?」
枯れた声が聞こえた。
この前聞いた、ユウリの酒やけのような喉の音だった。
何時?
そう聞かれても、時計が見えない…。
「…分かりません……たぶん、5時ぐらいだと思います……さっき、朝日が出て明るくなってきたところだから……」
私はそう言って、もう1度窓の方に顔を向けた。
そのままぼんやりと、日の出の方を見ていれば、背後から足音が届いた。
その音は、いつも通りの足音だった。
私が嫌いな、私を抱きに来る足音……。
そんな足音は私の背後まで来ると、背後で、膝をつくような音が聞こえた。
昨日、できなかったから、今からするのかと自分の足に力が入った時、
「……どんなふうに見える?」
と、やけに優しい声が耳に届いて。
その近さに、ぴく、と、肩が動いた。
どんな、
どんなふうって、言われても。
ただ黒色から、明るくなった、としか。
「あ、の…、ほんとに分からなくて……空の色って言うんでしょうか…。雲とかは見えなくて」
「……それで?」
それで?
「…す、みません……それぐらい、しか、まだ……目が……」
慌てて怒られないように謝れば、「そうか…」と彼が背後で言う…。
抱かない…。
しないのだろうか…?
出来ることのなら、早くして欲しい…。
ユウリが来る。
ユウリに抱かれているところなんて、見られたくない…。
そう思っていると、首に何かが回った。
ビクッと、肩が震え、「や、…」と声を出せば、力がこもったそれに引き寄せられ、私の背中に何かが当たる。
ビクビクと、震える私の体を、その引き寄せる力が支えるように閉じ込めてくる。
「……何もしない…」
耳元でケイシが呟く。
なんで?
どうして?
今、ケイシは私を抱きしめてるの?
後ろから抱きしめてるの?
え?
「何もしないから震えるな」
ケイシに触れられると、いつも私の体は震えてしまう。そんな私に震えるなという彼は、背後から抱きしめる力を強めた。
なに……。
どうして、抱きしめらてるの?
行為をした時も、抱きしめられたことなんてない。
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