第81話

──カチャカチャと、音が鳴る。


その音は滅多に聞くものでは無い。というよりも持っているその時点で銃刀法違反で捕まってしまう。


それなのに、その音を慣れた様子で鳴らす男は、表情を変えない。一つ一つ、弾丸を入れていく。──…合計で、三本。



「…捕まるんですか?」



そう光景をみていた男が、そう呟いた。



「どうだろうな、捕まるか。最悪、ミドウ組に殺されるか、だな」



軽く笑った男は、自分の死に対して、どうでも良さそうに答えた。



「…シイナの父親を殺すんですか」


「そのためにここまで来たからな」


「ここまで?」


「…俺は好きな女のためなら何でもする。捕まっても、殺されても」


「…シイナを置いて?」


「あいつはお前にやる」



その言葉に、目つきを悪くさせた男は、「ふざけるな」と、目の前にいる男を睨みつけた。


けども、銃の形を確かめるように、手を動かす男はその睨みにこたえていないようで。



「──……俺が、俺がやる、ケイシさんの代わりに」



けど、違う言葉には反応し、銃から目を離し、ケイシと呼ばれた男は同じように睨みつけた。



「…あ?なんだって?」


「俺がやる、俺が捕まる。…あんたが人殺しなんかしちゃだめだ…」



表情で分かるように、怒っている、男は持っているその銃口を、相手に向けた。指先ひとつで、血が流れてしまう代物。



「なめてんのか」


「ケイシさん…、さっき言ってたな、ガキ作ってるって。……もしできてればどうする?父親が人殺しになってもいいのか」


「…矛盾してんな、お前のじーさんは人を殺したことがある。それなのにお前はじーさんのこと好きだろ?」


「…ケイシさん」


「別に俺も初めてじゃない、今までに2,3人やってるしな」


「……」


「お前は、──…この重さを覚えなくていい」



銃口を背け、銃を机の上に置いたケイシと呼ばれた男は、「……俺はずっとお前がキライだった」と、それを呟く。



「生涯かけて守りたいって決めた女を、…お前は簡単に2人目を作っただろう?…自分の命に変えても…そんなのは1人だけでいい。シイナが好きならずっとシイナでいろ」


「…」


「もしシイナが死んでも、お前だけはずっと想ってやれ」


「…」


「…──でなけりゃ、シイナを覚えてるやつは誰もいなくなる…」


「ケイシさんは覚えないんですか?聞いた限り、シイナはあんたの好きだった子の義理の妹でしょう」


「…」


「…仮にも、あんたはシイナの夫だ、あんたがいなくなったら…シイナになんて言えばいい」


「…」


「確かに、俺は簡単に気持ちがうつり変わったかもしれない、でもそれは俺がシイナと向き合ったからだ。あんたはまだシイナと向き合っていない…」


「……」


「あんたが優しいこと、もうシイナは知ってる…」


「……」


「簡単に、俺にやるって言うんじゃねえよ」




ユウリの言葉に、軽く、息を吐く男。



「…お前が俺の下についた理由は、俺に信用できる男を寄越すためじゃない。お前の記憶力でもない。…シイナがマユと同じ父親っていう時点で、もう目星はついていた」


「…」


「俺が捕まるか、殺されるかすれば、もう自動的にシイナはお前のものだ」


「…」


「初めから、シイナはお前のだったんだよ」

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