第79話
西田さんの目が、俺を見る。
その目は、よく知るヤクザの目。
ここに…、──…俺が七渡さんに拾われた時と変わらない目をしている。
「…──はっきり言うと、それは分かってない」
分かってない?
マユの、妹じゃない?
「お前が女を助けようと動いていた時、その女の家族も調べた時があっただろう」
あった、確かに。
マユは、俺の好きだったマユは家族と仲が悪かった。マユが死んだ時、俺はその家族に会いに行った。毒親だったそいつらはマユが死んでもどうでも良さそうにしていた。
その時調べた限りでは、マユにキョウダイはいなかったはず。
「その親の名前と顔。覚えがあった。シミズっていう、元七渡の人間だった男と」
「…ここの?」
「ああ、でも、同一人物ではない。きっとそれこそ血縁関係があったんだろう」
「……」
「そのシミズという男は、ヤクザだったものの好きな女が出来たから組を抜けたいって言い出してな」
「……」
「組を抜けることはそう簡単な事じゃない。一護はそいつを死んだように見せかけ、みんなの前で防弾スーツを着せたあと撃った。──…組の奴らにバレないよう名前も、顔も変えた」
「……」
「そいつは戸籍を変え、春野の名字に変わった。シミズはいつも言ってたな、俺の子供も…果物の名前にしたいって、一護に憧れを持っていたから…」
「…果物…」
果物…。
それは、いつか西田さんに聞いたことがあった。組長である男も、亡くなったその嫁も、果物の名前だったと。
そしてその子供たちも、名前を受け継いでいると。
苺
琵琶
桃
柚
杏…
シイナ
詩奈──…
なし…
梨…
「……その男の子供だって、分かってたんですか」
「時期的に、当てはまる。俺たちはシミズたちの出ていった後のことを知らない。──…調べたところ、そいつは出ていって4年後に亡くなったのをついこの間知った」
「…」
「嫁が死んで、自暴自棄になったあいつは1年間で借金まみれになったらしい。その落とし前を…まあ、迷惑かけられてたのは、そのシミズの姉家族。姉家族はその借金を払った。それを実の娘から返して貰うはずだった。だから実際は──…、あの2000万の借金はシミズの物。春野詩奈の実の父親の借金だ。娘が返すのは当然だろう」
「……」
「まあ、こんなのはよくある話だが、」
「……」
「そのシミズは、知ってる。どうやれば人は死ぬことになり、別の人生を歩めるのかも。一護に教わっているからな」
「……」
「シミズは2つ目の戸籍を手に入れた」
「……」
「その男がどこにいるか分かってない、顔もまた変えたようだしな」
「……マユはどこに関係があるんですか」
「……さっき言っただろう、血縁関係があったと」
「……」
「……姉家族の元に、シミズの子供を身ごもったという女が1度現れたらしい。だか、その時は既にシミズではなく春野。もう死んだされていたからな…」
「……」
「…──坊ちゃん」
ユウリの名前を、西田さんが呼ぶ。
「…その写真を見てどう思う?」
ユウリの方を見れば、その欠片の写真を、ただ見つめている。
まさか……。
「マンションの前に停まってた…、この写真の男と同じ時計をしてた。ナンバーも覚えてる」
ユウリが、低く呟く……。
「お前の女を売ったのは、実の父親。きっと、ミドウに入る時にでもお前の情報を売ったんだろう。お前の女が実の娘だったのをシミズは知らないけどな……バカな男だ」
「…」
「あいつは娘ではなく嫁を選んだ男。あいつは気づいてる、春野詩奈が自分の娘だと」
「……」
「…ケイシ、お前ならどうする?」
「……」
「シミズを殺すか? それとも、好きだった女の父親を野放しにするか?」
「……」
「殺すなら、坊ちゃんに聞け。…坊ちゃんなら、顔を覚えてるからな」
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