第78話

────keishi side





この世界では顔は笑っているものの、目が笑っていない奴が多い。

その目に慣れたのはいつからか。

もう随分と昔に感じ。

この事務所の人間も、ほぼそんな目を持っている。


けどこいつの目は変わらない。

笑っていない目をしない。

というよりも、こいつは滅多に笑わない。

いつもあの人と似た鋭い目をしている。

いや、笑ってるか。

──…シイナの前では、笑ってる。

目が見えないって分かってるのに、シイナに見つめる目はいつも優しい。



「何してる」



事務所に行っても会いたい人はいなく、本家に来ればその鋭い目を持っているやつがいて。

廊下を歩いているユウリは、何かを探しているように目線を下に向けていた。

顔を下に向けていたから、俺を見上げるように見つめてきたそいつの瞳は、軽く俺を睨んでいた。


睨むっていうより、元々、そういう目なのか。



「捜し物」



低く呟いたそいつに、「何を?」と聞けば「ケイシさんが破った写真です」と、目線を逸らした。



俺が破った写真…。

思い出すのは、シイナの持っていた写真だった。ため息をつきながら、スマホを取りだし、そのスマホケースから〝それ〟を取り出す。



「これか?」と。



随分前に、タカから「落ちてましたよ」と言われ渡されたもの。


俺の指先にあるそれに気づいたユウリはまた目を細め、「ください」と低い声で言う。その欠片をユウリに渡し、それを手に入れたユウリは「…どうしてシイナの写真を破ったんですか?」と、俺に聞くけど。


それに答える義理はない。



無視して組長がいるはずの部屋に行こうとすれば、「坊ちゃん」と、その声が聞こえ。

正面から歩いてきたその人は組長の右腕…。

〝この状況〟をよく知る人物。



「坊ちゃん、普通なら売られる女の私物は全て捨てられるんですよ。どんなものでも」



西田さんは、今の話を聞いていたらしいけど。



「…けど、破ったことで捨てられずに済み、シイナ、というこの子の手元に残った。坊ちゃんはこれをどう思います?」



余計なことを言う……。

わざわざ、言わなくていいものの。



「西田さん、組長は?」


「出てる、お前が来たってことは、〝いろいろ〟分かったようだな」



〝いろいろ〟。

思わず、眉がよる。



「西田さん…、あの女を俺んとこにやったのは、こいつの女として狙われるから俺のとこに避難させてた、と思ってました」


「ああ」


「俺はそれにムカついてました、孫だけが甘やかされて……。俺は護衛役…手を出させないように利用されてると…」


「……」


「だったら酷く扱ってやろうって、実際、そこまで優しくはありませんし。泣くあいつを何回も抱きましたよ」


「…そう一護が命令したんだろう?」


「そうですね、子供作れって言われて中にも出しましたし」



背後で、かすかにユウリが動く音がした。



「……西田さん」


「……」


「あいつ」



聞きたくねぇ…。

けど、聞かなければならない。


俺の頭の中が、正しければ。


正しければ。




「あいつ……、マユの血縁者ですか…?」


「……」


「妹ですか」


「……」


「答えてください、あんたなら分かるはずだ」


「……」


「なんでシイナの名前を見た時、〝なるほど〟って言ったんですか」

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