第77話

〝マユ〟


妹?



ケイシの言っていることがよく分からなかった。だって私は元々一人っ子のはずだった。

親戚で預けられた時も、歳が近い男の子がいただけだった。

だから、



「あの……私…姉なんて…」


「知らないのか?」


「え…?」


「お前の、4つ上の」



4つ上…?そう言われても、分からないものは分からない…。記憶違いでもなんでもない、私には姉なんて存在しない…。



「あ、の…」


「……」


「ちが、違います…、姉はいません……」


「……」


「まゆ、って、だれ……」


「お前、親がいなくなったのはいつだ?」


「え?」


「死んだのは、確認したのか」



死んだ、のは………。

死んだのは。



「やめ…やめてください…。そんなこと…きかないで……」



ケイシの顔が、下を向く気配がする。そしてそのまま私の手から、ケイシの手が離れていく。



「……そうだな、確かめようが無い…」


「ケイシさん…」


「死人が生き返る、か……」




立ち上がったケイシは、「…事務所に行ってくる」と、その場から離れていった。



まだ手にケイシの温かみが残ってる私は、次の朝日が昇るまで、さっきの悲しそうなケイシの声を思い出していた。

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