第58話

「──…起きろ」


いつも朝は自分で起きるか、もしくはユウリの足音で起きるか、ユウリの優しい声で起きるかのほぼ3択だった。

ケイシは朝が早いのか、ユウリが来る時間はいないから。

ケイシと会うのは夜が多いのに。



昨日、確かにベットで眠っていたはずの私は、優しい声ではなくケイシの低い声で起こされた。



「起きろ」



さっきよりも低く言われ、起きたばかりだというのに背中に冷や汗を流しそうになりながら、「は、い…」と戸惑いながら腕をつき体を起こした。



久しぶりの、ケイシの声……。



下腹部に違和感を覚えながら、今の状況を理解しようと必死に頭を動かした。目の前で私を起こしてきたらしいケイシは、「早くしろ」と苛立ったように言ったと思えば。



「きゃっ、!」



何かに強く腕を引かれ、無理矢理私は、ベットから引きずり下ろれるように、ケイシの方に近づく形になった。


ケイシが私の腕を掴んで来たらしい。



なに、分からない、どうして怒ってるの?

どうして起こされたの?

そのまま掴まれながら、私はベットから床に足をつけ。



た、その時、下半身に、また違和感がして。

その違和感が何か分かった時、一気に顔が青くなった。



まさか。


うそ……、と。



どくどくと、ケイシに抱かれる前よりも心臓が早くなった。

慌てて後ろを向いたけど、目が見えない私には分かるわけない。



「す、すみません…すみません…ご、ごめんなさい……すみません…」



さっきまで、寝ていたと言うのに。

腫れた瞼からまた涙が零れそうになって。

痛む下腹部と、下着の中の不快感に、もう本当に死にたくなった…。



「あら、洗います……、よ、よごして…」


「…洗えんのかよ」



洗えるのか…。

見えないから。

どこについて、どれほど汚れているのかさえ、分からない…。



「あら、います……すみません……」


「風呂入ってこい」


「すみませ……」


「入ってこい」


「し、しーつも、お風呂で…」


「もうすぐユウリが来る、見られたいのか?」



見られたいのか?

見られたくないに決まってる…。



月に1度、女性に訪れるもの………。




この感覚、もうズボンにまで……。



「入ってこい」



ケイシが無理矢理私をお風呂場まで連れていく。何度も何度も謝る私を脱衣場に閉じ込めたケイシはまたベットの方へと戻ったらしい。



触らなかったおしりの方に手を触れると、やっぱり濡れている感覚があり。




なんとも言えないこの気持ちに、涙が止まらなかった。




お風呂場で何度も何度も服を洗った。

ズボンとパンツと。

上の服にもついている気がして、何度も洗った。




戸惑っている私はシャワーを上手く使えず、結構な時間がかかってしまい。




浴室から出て、脱衣場に出てもどうすればいいか分からなかった。生理用品を持っていない……。服はいつも、ユウリが用意してくれているから分かるものの……。


パンツをはき、タオルを挟んだ。

戻って、シーツを洗わなきゃ…と。

ケイシ…絶対怒ってる、と。

向こうに行きたくない気持ちをおさえ、リビングに繋がる扉を開けようとした時だった。




「──…シイナは?」と、ユウリの声がいつも私が座っているリビングのソファから聞こえたのは。

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