第52話

────yuuri said




「お前って結構慣れてんすね、甘やかされてるとばかり思ってました」


助手席に座っているタカという男は、どうでも良さそうに呟いた。路上にとめている車内で、だるそうに窓を少しあけてから煙草に火をつける。


──…夜の時間。

運転席に座っている俺は、口を開く。



「甘やかされてるのは当たってますよ、実際、自分なら何でもできると思ってましたし」


「あ〜…まあ、なんつーか、そういうのじゃねぇんだよな」



そういうのじゃない?



「この前、ケイシさんが馬鹿なことした奴らボコボコにしてたじゃん?それを普通に見てたから、こいつ慣れてんなーと思って。普通眼球飛び出てたら気持ち悪くて吐きそうになるだろ」



ついこの間の話をしているらしいけど。眼球とか、実際のところ、拷問は族に入っていた時に見慣れている。流雨はもっと酷いことをしていた。容赦という言葉を知らなかった。


まだ殺しは見てないけど、あの男なら何人か殺してるんだろう。



「そんとき普通にしてたお前見て、あーやっぱ組長の孫だなーって」


「…そうですか」


「俺的には出ていって欲しいんすけどね、敬語使えばいいのか使わなくていいのか分かんねぇし。お前のこと殴ったら、組長に殺されそうじゃん」


「敬語、使わなくていいですから」


「でもケイシさんが受け入れたから、出ていって欲しいとか簡単に言えないんだよな」


「……」


「つか、どうなのよあの子。マジでケイシさんと?」



シイナのことを言ってるらしい。



「はい」


「…まじかあ、…嫁にすんのは命令だって分かってるけど何だかなあって感じだわ。まあ確かにケイシさん若頭になるっぽいから、セガレは必要だけど……」




ふう、と、白い息を窓の外にむかって吐くタカは、今回の結婚に納得いっていない様子で。



「…タカさんも反対派ですか?」



ぽつりと言えば、「反対っつーより、ケイシさんは絶対女を作らないと思ってたんだよ」と、灰を灰皿に落とした。



「……作らない?」


「ああ、お前知らないのか、」


「…」


「ケイシさん、別に女がいるから」



タカの言葉に、は?と、目を見開かせた。


女?


女がいる?


浮気してるって事か?と。



「あー…、ケイシさんの女では無いか、付き合う前に死んだし」



どういう意味だと、眉がよる。



「ケイシさん、1回女、沈められてるんだよな」



沈められた?



「ミドウ組が、ケイシさんの好きな女を借金まみれにしてソープに落としたんだよ、あん時のケイシさん…すっげぇ怖かったなあ…」


「…」


「結局助けられなくて、女はビョーキなって自殺したけど」


「…」


「最悪だろ、金稼がせたあと、あいつらワザと女をエイズにして返してきやがった。知ってるか?発症すれば死ぬ、セックスすればうつるビョーキ」


「…」


「お前、ケイシさんのこと良く思ってないかもしれないけど」


「…」


「組長がそばに置くぐらいだから、それぐらい信用できる人間って覚えといた方がいいっすよ」

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